2023.04.27

VHG(体積型ホログラフィック回折格子)により光の波長をフィルタリング【META社holoOPTIX®ノッチフィルター】

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META®社(Meta Materials社)のholoOPTIX®ノッチフィルターは特定の波長の光を除去するための光学フィルターで、高いフィルター性能を持つのに加え、環境的にサステナブルで、従来の誘電体による手法をさまざまな場面で置き換えることができます。

META

FLEX:フレキシブルタイプ(70mm×375mmなど)

META

STRATA:リジッド基板付 タイプ (Φ25.4mm)

このホログラフィックフィルターは、遮断する波長帯、遮光性能(光学密度)、反射角度、寸法、納品形態など、様々な特性をカスタマイズしご提供可能です。そのため、お客様がお使いの独自の光学系にあわせ、要求を満たす事が可能です。
現在holoOPTIX®ノッチフィルターは2種類の形態と、3種類の中心波長(CWL)にてご購入いただけます。
製品形態:

  • 標準的な Φ25.4mm リジッド基板付 タイプ (STRATA)
  • META社独自の70mm×375mm フレキシブルタイプ(FLEX)
  • 中心波長(CWL):457, 532, 635nm

中心波長は、光の照射角度を調整頂くことで、容易に調整可能です。この際、p波とs波の2つの偏光の比も、たとえ照射角度が大きくても、そろったままにできます。カスタムはお問い合わせにてご相談のうえでのご提供となります。


 

はじめに

光学フィルターは、特定の波長ないしは波長帯域の光を、選択的に透過、もしくは除去するのに使われる部品です。光学フィルターには、用途にあわせた、いくつか種類があります。 ロングパスフィルターは、特定の波長よりも長い波長の光を透過し、それより短い波長を遮断します。 反対の効果をもつのは、ショートパスフィルターです。 バンドパスフィルターは特定の範囲(パスバンドと呼ばれます)内の波長を透過できるようにし、この範囲外の波長を除去します。 逆に、ノッチフィルターは、光学スペクトル中の特定の狭い波長領域(ストップバンドと呼ばれます)を除去し、残りを透過します。 ノッチフィルターは、その独特の光学特性により、さまざまな分野にて不可欠なツールとなっています(天文学 1,2 分光法 3 顕微鏡 4 生命科学と生物医学 5,6 マシンビジョン 7 監視用途など)。

META

ノッチフィルターは、大まかに、その機能の原理に基づいて、2つのタイプ、吸収型と反射型に大きく分類されます。以下、本稿では、分かりやすさのため、特に明記しない限り、フィルターという用語は、ノッチフィルターを指すものとして使用します。次項では、吸収型と反射型のフィルターをより詳しくご案内いたします。反射型フィルターについては、誘電体タイプと体積型ホログラフィック回折格子(VHG: Volume holographic grating)タイプのフィルターが挙げられています。

META

吸収型フィルター

吸収型フィルターは、言葉の通り、吸収することで不要な波長の光を除去しています。それらは通常、光学ガラスまたはプラスチックでできており、色素分子が均一に含浸またはコーティングされています。低コスト、シンプルな構造、優れた除去効率、高い機械的安定性、および入射角に依存しない性質が知られており、10,11,12 この色素ベースのフィルターは様々な用途にて使用されてています。紫外 (UV) 光と赤外 (IR)光の遮光&レーザー保護用のメガネ(アイウェア)から、交通標識、劇場照明など13,14,15。吸収フィルターの有効性は、その厚さと染料含有量に正比例します。

吸収型フィルターは、非常に効果的に遮光可能ではあるものの、そもそも備わる3つの問題から、用途が制限されます。

(1) 吸収型フィルターは一般的に広いストップバンドをもち、透過率最大部から最小部へと遷移していく傾きは急なものには(シャープには)できません。この制約により、次の用途での使用が困難になります。・傾きの急なスペクトルエッジが求められる場合(シャープなカットオン波長、もしくは傾きの急な(スティープな)カットオンスロープとも呼ばれます)・アウトオブバンド(OOB、パスバンドの外側の範囲を指す)での強度損失をなるべく小さくする必要がある場合

(2) 蛍光を用いた光学系 (フローサイトメーターなど) で使用される場合、吸収型フィルターに含まれる色素が蛍光を発し、その結果、シグナル検出の精度に影響を与える可能性があります.18

(3) 吸収型フィルターは、吸収した光を熱に変換します。この熱により、フィルターと、含まれる色素成分が損傷し、スペクトル形状が変化して戻らなくなってしまう場合が考えられます。19

反射型フィルター

これに対し、反射フィルターは、入射光の不要な部分を吸収するのではなく、反射することによって機能します。このように光を選択的に操作するのは、光の干渉を利用する事で行えています。このため、反射フィルターは干渉フィルターとも呼ばれます。

干渉とは、2 つ以上の光の波が、

・2波の電場が空間的&時間的に重なり合い

・コヒーレント (つまり、位相の関係が一定な状態) で

・偏光が直交していない場合に

重畳される自然現象を指します。
※干渉が生じるにはこれらの 3 つの条件がすべて満たされていなくてはいけません。20

それら光波の位相関係に応じて、光波同士が強め合ったり、あるいは打ち消しあったりと互いに干渉することがあります。つまりは、合わさった波の振幅が、干渉に寄与するそれぞれの波の振幅よりも大きく、あるいは小さくなります。強め合ったり弱めあったりする干渉の効果は、合わさる事で、明線と暗線が交互に現れる干渉模様(干渉パターン)を生成します。

基本的に、干渉フィルターは、高い値と低い値が交互になった屈折率プロファイル(分布形状)をもつ構造を備えています。入射光は、これら全体を通っていく中で、部分的に反射および屈折します。そして、そうしたすべての波が干渉し、強め合ったり弱めあったりします。 そのため、屈折率プロファイルを調整することで、透過と反射のスペクトル形状を制御できることになります。

干渉フィルターを作製するには、主に 2 つの方法が使用されています。それぞれ誘電体材料の成膜技術、もしくはVHG技術をベースにしています。

誘電体薄膜フィルター

誘電体フィルターは現在の干渉フィルター市場ではほとんどを占めています。この製造は、(通常)2種類の、異なる屈折率をもつ透明誘電体材料(例:フッ化マグネシウムや二酸化チタン)を、反応性スパッタ法などのデポジット工程を用いて、交互に薄い(多くはマイクロ以下の)層の形で積層して、基板をコーティングすることで行われます(多層膜)。21誘電体フィルターへの入射光は、コーティングの中、それぞれの層の界面にて、反射され、屈折もされます。2種類の層のキーとなる設計値(すなわち厚みや屈折率)を注意して決めることで、多層膜が、狙った波長にて、求める干渉効果(すなわち反射もしくは透過)をひきおこすようにできます。あるノッチフィルターにて、反射したストップバンド領域の光波同士が、強め合う干渉を起こしていれば、その波長の光がフィルターを透過するのを妨げることができます。多層膜の層数が多くなると、一般的にフィルターの光学密度(OD、遮光性)が増加します。

この薄膜の干渉フィルターには、吸収型フィルターにはない 3 つの大きな利点があります。

(1)誘電体フィルターは、光エネルギーを中に留めないため、高強度の光に耐えることができます。

(2)誘電体フィルターには色素が無いため、蛍光を用いた機器に取り付けられた場合でも、周辺蛍光ノイズが生じてしまう懸念をなくせます。

(3)誘電体フィルターは、計算してカスタムすることにより、狭くシャープなストップバンド幅にて、精確に設計したスペクトル形状をもつフィルターに作りあげることができます。そのため、特定の波長範囲を遮光するには最適なツールとなります。誘電体フィルターの有名な用途の1 つはラマン分光器で、ストークス散乱光と反ストークス散乱光の両方を高い S/N比で確実に検出するために使用されます.23

逆に、吸収型フィルターとは異なり、誘電体フィルターは入射光の角度に大きく影響を受けます。これは、光波が通る実効的な層厚が入射角に依存するためです。ほとんどの場合、入射角が大きくなると、ストップバンドが短波長側にシフトします。24このような角度依存性は二元的な特性です(角度と波長がそれぞれ独立して光学密度を変化させます)。たとえば一枚のフィルターでフィルターできるスペクトルを調整し、異なる波長でも臨機応変に対応できるような機能が求められる場合、これは好都合となります。25その一方で、特定の角度にする必要性から、高い位置合わせ精度が求められるほか、コリメートされていない光(すなわち波が様々な角度から入射してくる場合)にて、フィルターのスペクトル応答にばらつきが生じてしまいます。屈折率は温度と湿度によって変化するため、26誘電体フィルターはこれらが不安定な環境下では確実に機能できない場合があります。所望のスペクトル特性次第ではありますが、誘電体フィルターの製造には、手間とコストの大きな成膜プロセスが必要になるほか、希土類金属やレアメタルの使用が求められることも多くあります。

VHGフィルター

近年、不要な波長を取り除くのに、VHG (Volume holographic grating 体積型ホログラフィック回折格子)フィルターが注目を集めており、従来の誘電体によるフィルターの優れた代替品になるのではないかとされています。光干渉により機能するVHG フィルターは、幅の狭いストップバンドなど、誘電体フィルターと同じような特徴を多く持ちます。 ただし、誘電体フィルターとは異なり、VHG は大面積にて速く製造でき、環境的にサステナブルであり、取付けも容易となります。VHG は、レーザーを用いた分析用途向けのノッチフィルター以外にも、多くの分野でも数多く使用されており、拡張現実(AR)、LED照明および太陽電池用途27、波長の安定化、ポンプ光注入、分散したパルス光の圧縮28などに使われています。

ホログラフィーは、何十年もの間、元来はオブジェクトに関する情報を感光媒体の中に書き込む(エンコードする)ために使用されてきました。ここで、ホログラムに光を入射させると、オブジェクトが表示 (「再生」) されます。VHG ノッチフィルターの場合は、同じような考えが使われてはいますが、ホログラムにエンコードされるオブジェクトは、実効的には「鏡」となります。

VHG は、干渉パターン (ホログラム) を感光媒体に記録することによって作製される回折格子です。VHG ノッチフィルターの場合、干渉パターンの形成は、2本の、コリメートされたレーザー光のコヒーレントな単色の光線を交差させて行います。このような干渉パターンの中には、平行な干渉パターンの面(格子(グレーティング)状の面)が並んでおり、これが、現像後のホログラフィック材料にて、周期的に分布する屈折率を形づくります。

格子(グレーティング)状の面は、記録媒体の厚み全体に分布します。この厚みは(一般的には数マイクロメートル厚であり)記録光の波長よりもかなり大きいものとなります。この特徴のために、「体積型(Volume)」という言葉が名称に使われており、VHG を、「表面レリーフ(凹凸)型」の回折格子と区別しています。表面レリーフ型は、回折構造が、VHGと異なり、表面にしかありません(例として何本も溝が並んでいる構造など)。

記録工程を調整する―具体的には2本の記録用レーザービームの角度を変える―事で、格子面はフィルター表面に対して、さまざまな角度に傾けて設ける事ができます。フィルター表面に対し、平行な面を持つ回折格子はコンフォーマル型回折格子と呼ばれます。これに対し、フィルター表面に対し、異なる向きの面を持つグレーティングはスラント(傾斜)型回折格子と呼ばれます(図 1)。

(a)

META conformal

(俯瞰図)

META conformal

屈折率パターンはフィルム面に対し平行(コンフォーマル Conformal)

(b)

META slant

META slant

 

屈折率パターンがフィルム面に対し傾斜(スラント Slant)

図1. (a)コンフォーマル型(b)スラント型のVHGフィルターの模式図

入射光に対する応答から、VHGは透過型と反射型の2つのカテゴリに分類されます。後者はノッチフィルターとしてお使い頂くのに最適です。反射型VHGに照射された光は、ブラッグ条件と呼ばれる条件に合致すれば回折(反射)され、そうでなければ、そのままの向きで透過します。VHGのブラッグ条件は、コンフォーマル型の構成であれば以下の式で得られます。

Bragg条件式 (1)

λ:入射光の波長、n:媒質の屈折率(平均値。波長により変化)、Λ :隣接する格子面同士の間隔、
θn :光の入射角(媒質中での角度。フィルター表面の法線方向に対して)

式(1)を見ると、あるVHGが光を回折できるのは、θnとλが合わせてブラッグの式を満たす場合のみであること、つまりは、VHGの機能は、この2つのパラメータに依存することがわかります。この角度と波長による変化は、誘電体フィルターのものに似ています。図2は、反射コンフォーマル型VHGでの二元的な依存性を図示したものです。図 2(a) に示すVHGでは、VHGが、約 –14~14°の角度で入射する波長 532 nm の緑色光を非常に高い効率で遮光します。この範囲は角度帯域幅(ABW; angular bandwidth)と呼ばれ、特定の波長(例: 532 nm)と透過閾値(例: OD1)にて定義(具体的にspecify)されます。ABWより外の角度では、光は回折格子を透過でき、角度の変化も、強度の大幅な損失も生じません。入射角が大きくなるにつれて、ストップバンドは次第に短波長側にシフトしていきます(図 2(c))。図 2(b)の分散マップにおける黒い曲線は、回折格子により遮光される範囲に含まれる、角度と波長の組み合わせを示しています。

(a)

META

(b)

META

(c)

META

図2 反射コンフォーマル型VHGの角度と波長ごと変化
(a)角度ごと変化(b)角度&波長ごと分布(c)波長ごと変化

holoOPTIX®ホログラフィックノッチフィルター

META社が高い性能のノッチフィルターとして提供しているのが、holoOPTIX®ノッチフィルターです。これは、コンフォーマルVHGでのフィルムベースのノッチフィルターの製品群で、標準的なΦ25.4mmリジッド基板搭載の形態(STRATA)と、独自の70mm×375mmフレキシブルフィルムの形態(FLEX)のどちらの形態にてもご利用頂けます。3つの中心波長(CWL)、具体的には457、532、635 nmにてそれぞれ、各形態でのご提供を行っています。holoOPTIX®フィルターの中心波長は、入射角度を変えるだけで用意に調整できる点、図3に示すように、仮に入射角度が大きくなっても、p偏光とs偏光の中心波長をそろったままにできる点にもご注目ください。カスタム品は、ご要望に応じて対応しております。

META ps angle tuning
© 2023 Meta Materials Inc.
図3 角度による中心波長(CWL)調整:532nm-STRATAフィルターでの値

同じVHG フィルムとプラスチック(トリアセテート セルロース(TAC))基板で構成されたVHGフィルムの積層品が、2つの形態のholoOPTIX® フィルターのどちらにおいても、コア要素となっています。STRATA フィルターは、VHG フィルム積送品を2 層のガラスの間に挟み反射防止コーティングを施した構成をしており、黒色のアルマイト処理されたアルミニウムリングに取り付けられています。フィルムアセンブリは、透明接着剤 (OCA) を使用してガラスに固定されます。これらの軽量(約3.5g)のフィルターは、市販のフィルターマウントを用いて光学機器に組み込むことができます。それに対し、ガラスの代わりに、はがすことが可能な保護膜がFLEX フィルターでは使用されます。これによりフレキシブルな(柔らかい)形となり、フィルターを任意のサイズにカットし、任意の角度に曲げることが可能となるため、多くのご用途と実装の際の要求を満たすことができます。図4にSTRATA および FLEX フィルターの構造を示します。

META STRATA

© 2023 Meta Materials Inc.

(a) STRATA

META FLEX

 

(b) FLEX

図4 holoOPTIX®(a)STRATA(リング無し)および(b)FLEXフィルターの
構造を分解図で示した模式図
(各層厚みは実寸法に合わせてはいません)

今日まで、ホログラフィックノッチフィルターを作成するために、さまざまな干渉パターンの記録技術が開発されてきました。これらの手法は、原理的には似ているものの、効率、用いやすさ、およびスケーラビリティの点で大きく異なります。META® で社内で設計された唯一独自の記録および製造プロセスにより、holoOPTIX® ノッチ フィルターは、比類のない、性能、寸法制御の自在性、設計調整のしやすさを、あわせて同時にご提供できます。 これらのプロセスについて、以下で簡単にご説明いたします。

透明なフォトポリマーフィルムであるCovestro Bayfol® HX120という材料を、目的の干渉パターンを記録するための媒体(メディア)として使用します。フィルムはまずミラーの表面に置かれ、次にコリメートされたレーザービームを、ミラー面の法線に対してある角度で伝搬するようにして、これにさらします。
ミラーから反射されたビームは入射ビームと交差し、定在波を形成。この定在波が干渉パターンを生じ、明るい縞と暗い縞が交互に現れます。鏡面反射のため(=入射光の角度が反射光の角度に等しいため)、この縞はミラー表面に平行になります。この干渉パターンを記録した後、紫外線(UV)と白色光にてフィルムブリーチ(全体露光)硬化されます。

生産をスケールアップするため、META® 社では、自動化されたモーション制御システムも取り入れた、レーザー光線の走査による記録プロセス(特許取得済み:米国特許番号 10,969,528 および 17,222,545) を採用しています。この手法により、製造効率や製品の均一性を改善しています。

多くの市販製品の性能を上回り、holoOPTIX® ノッチフィルターは、高い(フィルター)効率と狙いの波長の光をブロックする選択性を持ちます。現に、中心波長(CWL)にて4.0を超える光学密度(OD値)があり、狭いスペクトル波長帯域幅 (SBW)(8~16nm @ OD1)を持ちつつ、波長帯域の外側(OOB)の波長では、顕著な減衰も無く透過ができています(可視光透過率曲線については、図 5 を参照)。各狙いの波長にて、STRATA フィルターは、同じ波長のFLEX フィルターよりもやや高い透過率をもちます。この違いの主な原因は、STRATA フィルターのガラス部に、広帯域にて反射を低減する反射防止コートが施されているためです。

さらに、STRATA フィルターは、1 波長(RMS:二乗平均平方根値)未満の透過波面歪み (TWD) 、直径 20 mm のクリアアパーチャ(有効開口)(CA)や、高い表面品質(60-40 スクラッチ-ディグ評価)を可能にします。表 1 に、holoOPTIX® ノッチ フィルターの仕様の詳細を示します。

META STRATAスペクトル

© 2023 Meta Materials Inc.

(a)

META FLEXスペクトル

 

(b)

図5. holoOPTIX®(a)STRATA (b)FLEXノッチフィルターにおける可視光透過率曲線

 

表1. holoOPTIX®ノッチフィルター仕様

META holoOPTIX仕様表

※λ:波長 (狙い値)

信頼性と耐久性のテストでは、米国国防総省(USDOD)標準MIL-C-48497 で規定されている温度&湿度の条件にさらされた後、SBW、OD値、ヘイズ、可視光透過率、TWD、および黄色度にて、holoOPTIX® ノッチ フィルターの性能に顕著な変化が見られないことが明らかになっています。米国国防総省MIL-PRF-32432(GL)規格に従って実施される熱分析と1日ごと湿度サイクル、および ASTM D6653 プロトコルの下で実施される高度試験を含む加速環境試験も実施されています。

FLEXフィルターは、STRATAフィルターと多くの部分で、光学的に共通する部分がありますが、3つの点で異なる特徴があります。
(1)1500 nm までの波長を透過可能。これは、ほとんどの誘電体フィルターで設けられる上限値を大幅に上回るものです。
(2)業界初の70mm×375mmの大型サイズで、STRATAフィルターと同価格。
(3)薄く(0.31 mm)フレキシブルなポリマーベースの構造をもちます。このため、すでにある曲面を備えた機器へ後から付け加える事ができたりと、非常に自由な形で、個々のニーズに合わせた取付け方法を可能にします。 このような自在な使い方は、一般的に、誘電体フィルタでは、硬いガラス基板があるために難しいものとなります。

holoOPTIX®フィルターにてオプションでご利用頂けるカスタマイズ

これ自体、注目に値する性能ではあるのですが、お買い求め頂けるholoOPTIX® ノッチ フィルターだけでは、META®社が、その高度な調整能力を備えたホログラフィック技術とレーザー設備を駆使して提供できる技術の、ほんのわずかな部分しか垣間見ることができません。これらのノッチ フィルターの多くの光学特性 (ターゲット波長、形状、反射角、OD値など)は、ご要求に合わせ、容易に調整頂けます。

ターゲット波長を調整可能

META®社は、可視スペクトル全体だけでなく、860 nmまでの近赤外スペクトルからも特定の波長をターゲットとするノッチ フィルターが製造できます。これにより、さまざまなレーザーの動作波長をターゲットに含むことができます。たとえば、チタン-サファイア (Ti:sapphire)、あるいはNd:YAG(ネオジムドープ入りイットリウム-アルミニウム-ガーネット結晶)、Nd:YVO4(ネオジムドープ入りオルトバナジン酸イットリウム結晶)を用いたシステムなど、他にも様々なものがございます。

サイズ・形状を調整可能

製造プロセスも、現在提供されているものの他にも、多くのサイズ (holoOPTIX® FLEX ラインでは最大 400 mm × 500 mm) のフィルターを製造するように調整可能になっています。

 

STRATA および FLEX フィルタはコンフォーマル グレーティングをベースにしています。ここでは、光線は、ストップバンドの範囲にて、入射角と同じ角度で反射されます。これらの鏡面反射フィルターとは別に、META®社は、光を特異な方向に、つまり入射角とは異なる角度で反射するフィルター (holoOPTIX® SLANT ラインで提供) も製造できます。反射光を任意の方向に傾けることができるため、これらのスラントタイプのノッチ フィルターがあれば、新しい光学機構の設計が可能となります。

たとえば、

  • フレネル反射光に欲しい光が混ざらないようにしたり
  • 光の透過時の歪みを無くしたり
  • 光線を自在に配置できたり、あるいは、
  • コンパクトで軽量な構造を作製できたり

といった利点を得る事ができます。

META

META

SLANT(スラント)タイプのholoOPTIX®フィルターにより まっすぐ透過する光に対し、斜めから入射する光を、重ねる(光を合成する)ことができます。 あるいは逆に、合成されていた光を、波長ごとに透過/回折するか選ぶことで光を別方向に分離することも可能となります

holoOPTIX® フィルターの OD値は、主に 2 つの要因、つまり、求める干渉パターンを記録する媒体として使用される感光性ポリマーの、フィルム厚さと化学的性質に依存します。 フィルターに存在する各回折格子面は、それぞれターゲット波長の一部を除去し、この効果はそれぞれ加算されていくようになっています。したがって、OD値は回折格子の面の数だけ比例します。化学組成を考慮しなければ、この数は、記録媒体の厚さに依存します。したがって、OD値は、フォトポリマーフィルムの厚さを制御することによって容易に調整することが可能です。 一方で、感光性ポリマーのフィルムの化学組成もまた、OD値において重要な役割を果たしています。この化学組成は、記録工程にて干渉パターンを構成する明るい面(明線)と暗い面(暗線)の間に生じる、屈折率の差(Δn )に影響を与えるためです。一般に、OD値はΔnとともに増加します。OD値の他に、感光性ポリマーのフィルムの特性はスペクトル波長帯域幅(SBW)を決める要因でもあります。ご要求のフィルターの数量次第では、特定の光学要件を満たすように感光性ポリマーのフィルム自体を再構成することも行われます。

さらに、複数の干渉パターンをフォトポリマー フィルムに記録することで、一度に複数の波長範囲を同時に除去する多重化 VHG(Volume holographic grating 体積型ホログラフィック回折格子)フィルターを作成することができます。

META®社のホログラフィック技術の可能性は、ノッチ フィルターにとどまらず、さらにそれを超えた所にも及びます。すでにこの技術により、パイロットや警察官向けのレーザーグレア保護具がご提供されています。あるいは、ARウェアラブルで用いられる光コンバイナーなど、その他のご用途での開発も現在進行中です。

結論

holoOPTIX®ノッチフィルターは、従来の誘電体ノッチフィルターに置き換わる、高性能で、環境的にもサステナブル、汎用性にもとんだフィルターとしてご利用いただけます。こちらはカスタムも容易に行え、様々な光学的な要求を満たすことができます。これらのフィルターは総販売代理店であるコーンズテクノロジー社を通じてお買い求めいただけます。

 

用語集

  • 光学密度 Optical density:「光学濃度」とも訳され、OD値などと略されます。
    フィルターにより光量が減衰される程度を数値で表したものです。透過率(透過される光量の割合)が10の何乗分の一かの数値を示しており、透過率(T)とOD値(OD)は下記の関係があります。
    META T=10^(-OD)
    (透過率Tをパーセントで表す際は、Tをさらに100倍します)
    META OD値表

    透過率で表現するよりも、フィルターを複数枚重ね合わせた時の合計の減衰量が計算しやすくなるため、しばし用いられます。
  • 表面品質surface quality:工程中に、光学部品表面に生じた欠陥(キズ(scratch) やブツ(dig)と呼ばれる欠陥など)の量を規格化された基準に基づき評価しランク付けしたもので、数値にて表現されます。

 

参考資料

(本稿翻訳元)

(翻訳元 文書内 参考文献)

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(用語集)

エドモンド・オプティクス社HP

  • https://www.edmundoptics.jp/knowledge-center/application-notes/optics/understanding-neutral-density-filters/
  • https://www.edmundoptics.jp/knowledge-center/application-notes/lasers/understanding-surface-quality-specifications/

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