2014.04.22
【Webマガジン Vol.9 – Apr., 2014】赤外線カメラの初歩
WEBマガジン
露光時間(シャッタースピード)とフレームレート
赤外線カメラは被写体表面の赤外線放射輝度分布をセンサー受光面に写して、それを温度分布に変換しています。輝度が倍になると取り込まれる放射エネルギー量も倍になり、センサーから出力される信号電圧も倍になります。前述したInSbによるセンサーでは、シリコンのイメージセンサと同様に半導体内で起こる光電効果を利用して、この放射エネルギーを電子に変換し、蓄積して電気信号を生成しています。この事情は、各ピクセルに小さなバケツがあり、そこに蛇口から水(放射エネルギー)を溜め込むアナロジーを思い浮かべてください。カメラにはシャッタースピードが設定できるようになっており、照度に合わせて調整し適正な露光量を取り込むというのは、すべてをメカで動かすフィルムカメラを使い慣れた向きにはお馴染みのことですが、最新の赤外線カメラにも同様の調整が必要です。
バケツのアナロジーを使って説明すると、最初に説明した線型関係が成り立つのは、水がバケツの3分目から7分目程度の間で推移している場合で、底に近い部分および縁に近い所はこうした関係が成り立たちません。後に述べる理由(5-3 温度較正とNUC)で、バケツを用いて精密に水量(放射エネルギー量)を計るためには、この範囲で計測をまかなう必要があります。温度との関係で言うと被写体が高温の場合、輝度が高くなり、単時間当たりに取り込む放射エネルギーの量は高くなります(蛇口からの水流が強い)。このため、シャッター時間を短くしてバケツの3分目から7分目までに水が来るようにして計測します。低温の場合(蛇口からの水流が弱い)、逆にシャッター時間を長くして同様に3分目から7分目までに水が来るようにして計測します。
このように計測温度範囲に対応する適正な露光時間あるいはシャッタースピードが存在するので、この点を考慮した設定が必要です。フリアシステムズ製の赤外線カメラは、複数の露光時間(従って、複数の温度レンジ)で連続撮影を行い、それらを合成して1枚の画像として出力する機能を持っています。(マルチIT機能と呼ばれる。)この機能を用いれば、同じシーンの中に異なる温度レンジに対応するエリアが同居していたり、時間的に温度変化が大きかったりする過渡現象も容易に捉えられます。(可視カメラで、長短2つの露光時間で撮影した画像から、白飛びや黒つぶれのないHDR(=High Dynamic Range)画像を合成するテクニックと類似の機能です。)
フレームレートは1秒間に撮影するコマ数のことであり、単位はHzあるいはfps (frames per second)で表わされます。これは露光時間と関係があります(図4-2-1)。露光が終わるとセンサーからピクセルデータを読み出しますが、露光と読み出しを逐次的に行うか並列的に行なうかの2種類があり、フレームレートを上げるためには後者の方法が有効です。
図4-2-1. 露光と読み出しのシーケンス
また、ウィンドウイングと呼ばれる方法で受光面の一部をのみを読み出すことが可能であり、この方法を用いると撮影範囲は小さくなりますがフレームレートを上げることができます(図4-2-2)。撮影対象となる現象がこのフレームレートで十分がどうかの整合性のチェックも必要です。
図4-2-2. ウィンドウィング