2013.03.22

【Webマガジン Vol.3 – Mar., 2013】人工ダイヤモンドの可能性

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コーンテクノロジー
この記事の監修者
コーンズテクノロジー編集部
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ダイヤモンドは最高の熱伝導率を持つ物質

– ダイヤモンドとはどういう特性を持った物質なのか、藤森さんからお話しいただければと思います。

【 藤森 】   ご承知のようにダイヤモンドは硬度が一番高い物質ですが、一番大きな問題点は天然にしても超高圧にしても結局、石、粒子という形でしかダイヤモンドを得ることが出来なかった。それが1981年に当時の無機材質研究所(NIMS)で出された気相合成技術により、そういうものとはちょっと違う種類のダイヤモンドが出来たのは、かなり大きなイノベーションです。それがどのように影響してくるかと言いますと「板」とか「膜」といった使い方が出来、いろいろな応用の可能性を一気に出しました。

 

気相合成術がダイヤモンドの形態に
イノベーション

   ここには(図:「ダイヤモンドの特性と応用」参照)、代表的なダイヤモンドの物性だけを書いていますが、上のほうは比較的機械的な特性で、摺動摩擦が非常に低いという特性もあります。熱伝導率も他の材料と比べると何倍も大きい。ダイヤモンドは、銅と銀のほぼ5倍の熱伝導率ということが言えるわけです。半導体特性の比較を示しますとこれが代表的なもので、これはパワー系のデバイスの性能仕様でジョンソン(Johnson)という人が作ったもので、今話題のSiCなんかに比べても5倍ぐらい優れていると言われています。

 

半導体材料特性の指標

   最近、もっと違う特性が面白いぞという話になりつつありまして、例えばその中の一つは、電気化学ポテンシャルのウィンドウが非常に広いという特性です。これを電気分解の電極やセンサに使ったりすると面白い特性が出てくると言われています。元東京大学の藤嶋(昭)先生、(現東京理科大学総長)が発見された、ボロンをドーピングしたダイヤモンドの非常に大きな特徴です。

それ以外で最近の話で面白いのは、量子コンピューター。夢のデバイスなんですが、これが実現する可能性がありそうだという端緒みたいなところが、少しずつ分かりつつあることです。特に大きいのは、ダイヤモンドを使うと常温で量子コンピューターが動くかもしれないという話で、これが本当だとするとコンピューターに使ってもいいじゃないかという話に結びつきますので滅茶苦茶意味が大きくなる。この話の実用化は30年先、40年先の話だというふうに思っていただいて宜しいかと思います。

   今までに実用化したものはそんなにたくさんはなく、青色に塗ったものは、(図:「ダイヤモンドの特性と応用」参照)ほぼ実用化したものといっても良いものと思います。そういう意味でダイヤモンドというのは、「石」が「板」になったというだけでは、まだ解決できない技術的な課題がたくさん残っていると申し上げても宜しいかと思います。

 

ダイヤモンドの特性と応用

気相合成法がもたらしたもの

– 人工ダイヤモンドの作り方にも幾つかあり、当社も深くかかわっているわけですが、この辺の作り方の違い、それから1981年に当時の無機材質研で出来たやり方の意味について、藤森さんいかがですか。

【 藤森 】  超高圧法は、有名なGEの発明した1955年にアナウンスがあったもので、5万気圧1500℃くらいが大体作るための良い条件ですが、大体こぶしくらいの大きさのところにダイヤモンドを作るのに3階建てくらいの装置がいるのが普通です。この超高圧装置が秀逸だったのは、わずか5、6年で直ぐに実用化したんです。良く申し上げる話なんですけれども、GEが砥粒を出して、要はそれまで鑿で削っていた墓石が、全部砥石で削れるようになり、ピカピカになったという大変革を起こした。これがなければ、シリコンもデバイスとして使えなかったかもしれないというぐらいの大きなことだったと思っています。

もう一つ申し上げなければならないのは、この超高圧法で焼結ダイヤっていうのが作られるようになった。これは、金属とダイヤモンドの複合材料なわけで、これもまた物凄く大きいことで、切削工具としていろんな分野で使われるようになった。

   爆発法で作ったダイヤモンド、これは1960年頃に発明されて、これも一気にいろんなところで実用化が進みました。超高圧技術は、まだ他にも成果があってキュービックボロンナイトライド(cBN-立方晶窒化ホウ素)という物質を作った、ということがあります。天然にはない要するに人工物質の超硬材料です。

これに対して気相合成は81年の発明、一番最初に論文が出たのは76年とありますが、実際に使えるようになったのは81年の無機材研の発表からだと思います。これが1000℃で大体0.1気圧。ですから、超高圧法とは全然違う領域でやるっていうところに面白さがある。よく「超高圧法とか爆発法は平衡状態でダイヤモンドを作るが、気相合成法は非平衡状態で作っているんだ」という言い方、分類の分け方をする。それでも似たようなものがちゃんと作れるというところは、大変面白いところですね。

 

ダイヤモンドの人工合成技術

– 日本で始まった気相合成法ですが、それを装置としてプロセスを自動化したりしたのが出来たのがアメリカ。当時のセキテクノトロンがASTeX社のCVD装置を輸入し始めたのが20年前。藤森さんの会社で使われているのも、小出さんのほうでも主にやられているは気相合成法だということですね。

【 小出 】   エレクトロニクス的には半導体デバイス屋さんはこの手法がベストであると考えていて、今のところほぼ100%であると思います。

【 藤森 】   歴史的にいうと1960年くらいから気相合成の技術で、かなりいろいろなことが出来るということが分かっていた。そういう技術で何が出来るだろう、物質の中で何が出来るだろうといろいろと見ていたところはありますね。普通は、何となく「宝石がやりたいから皆やっているんだ」みたいな、いわゆる錬金術の2代目みたいな話が想像されるんですが、そのような感じとは当時の人はかなり違っていたと私は思っています。私は80年頃、あくまで工具として使いたい、特にコーティング工具をなんとかやりたいという気持ちがあって当時住電でやっていたんですが、それが出来てみたら粒や石とは違うものが出来ますねという話になったわけなんです。

【 小出 】   私は93年からダイヤモンド研究に関係していますが、本格的には無機材研がNIMSに変わって統合した後の02年から参加していますので、先達や同僚の方々からの伝聞でしか聞いていません。元々無機材研は様々な物質・材料の結晶合成を主に研究を進める研究所で、当時最初にあったカーボングループから、必然的にカーボンをダイヤモンドにという流れがあってダイヤモンドを高圧合成で創る、粒子という形で小さくても単結晶や多結晶で造る研究がスタートしたと思います。それを広く工業化を目指すために気相合成というのは、自然の流れという印象を持ちます。もちろん、チャレンジングなので大変難しかったと思います。一つにはマイクロ波励起という手法、あるいはホットフィラメントを使う手法の発掘がイノベーションであったと思います。ああいうプラズマ状態や高エネルギー状態を使って創るという技術の発見に至るのは素晴らしいと思います。

よく私もNIMSでいろんな一般の見学者が来るのでダイヤモンドの説明をするのですが、一般の方々にはこう言って説明しています。「カーボンというのは、結合状態によって、最高に硬くなったり、作り易く柔らかくなったりします。直線定規に例えると、右端が柔らかいカーボン、左端が硬いダイヤとなります。」化学結合的な専門語で言えば、「sp3混成軌道を作るとダイヤで、これが今言う究極の硬いダイヤです。一方、sp2混成軌道を作ると柔らかいカーボンとなります。それが混ざり合ったものを私たちは普通ダイヤモンド状炭素、DLCと呼んでいます。」

私たちは、この左端のいわゆるsp3混成軌道のダイヤモンドを研究しています。最近は新材料としてグラフェンやナノチューブが登場していますが、基本的にはDLC(ダイヤモンド状炭素-Diamond Like Carbon)とダイヤというカテゴリーで考えると、ダイヤで探究する方が確かに工業的には難しいと思います。