2013.03.22

【Webマガジン Vol.3 – Mar., 2013】人工ダイヤモンドの可能性

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コーンテクノロジー
この記事の監修者
コーンズテクノロジー編集部
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Sp3ダイヤとDLCは何が違うのか

– sp3結合のものとDLCとは何が違うと考えれば良いでしょうか?簡単にいうと。

【 小出 】   やっぱりダイヤモンドは究極の特性、例えば、硬いというのがあります。歪んだ量に対してどれだけのパワー(応力といいますが)、復元力が発揮できるか、その係数のことをヤング率と言います。ダイヤモンドが1200メガパスカルです。要するにちょっと歪んでももの凄い復元力パワーがあります。それを例えば、MEMSという電子機械デバイスに応用すると最高に凄い高速振動と高い周波数分解能を実現できることになります。現在ではシリコンを使って実用十分なMEMSデバイスが出来ていますが、そういう機械的振動、高周波振動に対してどうしても寿命が来てやがては壊れることになります。ところがダイヤモンドは今説明したように硬いから、破壊されにくく長寿命でもあり、しかも高速に動く状況でも長持ちすることが期待できます。あるいはAFM(原子間力顕微鏡-Atomic Force Microscope)のプローブチップに応用し、ナノスケールの表面観測に使ったときでも、非常に安定で機械的振動に対しても長持ちすると思われます。

機械的性質からいうと硬いという物性はダイヤモンドの方がDLCよりは優れていると思います。同様にアモルファスカーボン、炭素膜、ナノチューブ、グラフェンではできない特性と思います。周波数分解能の高い高周波振動特性を利用して、例えばバイオセンサにも応用できると思います。つまり、生体分子や超分子の表面吸着からわずかな振動数シフトを検出するような高感度なバイオセンサです。材料物性としてヤング率が大きいことや硬いということは、他の炭素材料に無い高感度を達成するセンサが開発できる可能性があります。

エレクトロニクス的には先ほど言ったように、ダイヤモンドはワイドバンドギャップであること、またブレークダウン電圧(絶縁破壊電圧)が大きいことです。パワーデバイスとして応用したときに絶縁破壊を起こす電圧・電界が他の材料に較べてはるかに大きい。最近話題のSiC(半導体炭化ケイ素)やGaN(半導体窒化ガリウム)を凌駕しています。それが先ほどのジョンソン指数という形で藤森さんが示した図に反映されています。ダイヤモンドは丈夫で安定であることから、例えば、放射線センサにも応用可能であるように、放射線が大量にある環境でも電子デバイスが動くことが期待され、この特性はシリコンデバイスでは不可能と思います。ダイヤモンドが本当に良いかどうかはこれから検証されていくと思いますが、そのような極限環境で安定に動作する電子デバイスや光デバイスが、まさに今必要となっています。私が言いたい点は、DLCや炭素膜では出来ないけれども、ダイヤモンドであれば特別な限定された環境・領域で優れたダイヤモンドの性質が活かせる、驚異的に活かせる場があるということです。

【 藤森 】   何が一番違うかはっきり申し上げるとダイヤモンドはそれだけ単独で使うことはあるんですが、DLCはそれだけを単独のもので使うことはまだないんです。あくまで表面にコーティングしたものを使っているんです。そこは物凄い差です。形態の差があるわけです。DLCは、「今の形態のまましか外に出られない」ということになると使える場所は、今言ったように機械的な場所とか、電気的なことに使うとしてもアモルファスカーボン的な使い方でしかない。それに対してダイヤモンドはやっぱり単独のもので使っていますし、コーティングでも使えますからその差は結構大きい。

DLCは現在、工業材料としての位置づけを固めましたけど、ここまで来るのに大体30年。そういう意味でいろんな革新に貢献したということは確かだと思います。それは、気相合成技術の凄い大成果だったと言えると思います。いろんな手法でDLCが作れるというような状態になって、しかもいろんな種類のDLCがあるということも凄く大事なことだと思いますね。

– ダイヤモンドには非常に優れた特性があって、良いことがわかっているのにまだまだ普通の人の生活に使われるようなところにまでは来ていない。簡単に言うと作るのが高いし、簡単に量産ができないとかというのがある。ダイヤモンドを材料として使いこなすそのあたりの難しさはどこにあるのでしょうか?

【 小出 】   マイクロ波励起の気相合成法は素晴らしいのですが、出来たエピタキシャル薄膜、それを電子デバイスや光デバイスの半導体デバイスに応用するという意味ではやはり難しいです。つまり点欠陥あるいは結晶欠陥、転位などの欠陥が他の材料に比べて制御しにくいという印象を持ちます。

しかし、半導体業界的な視点から、GaN(窒化ガリウム)が現在の市場に登場して来たときのこと、あるいはSiC(炭化ケイ素)が、ここまでのレベルに来ているという状況を比較して考えてみたいと思います。GaNはサファイア基板上に成長させることで光デバイス、レーザー、LED(発光ダイオード)としてブレイクしていきましたが、その時の結晶欠陥の密度は、10の8乗から10の10個/1立方センチメートルもの高濃度でした。こんな高濃度な結晶欠陥が存在してもビカビカ光る、しかも結構長い寿命を持つということで皆さん驚いたわけですね。「こんなに欠陥があったらそんなもん出来るはずもないし、ダメだ」という今までの半導体デバイスの常識が覆されたことが一点です。

それでは、電子デバイスにしたらどうでしょうか? 当時、携帯電話に使うICチップを開発していた企業研究者が、電子デバイスを作製して動作させてみたら、「欠陥があっても意外に特性が良かった」ということが驚きのようでした。つまり、欠陥があっても光デバイスや電子デバイスとして実は使える特性を生み出せる。そう意味ではGaNは欠陥が存在しても良い特性を持つのでホモエピタキシー、つまりGaN単結晶ウェハー上にGaNを作製する方向に開発の方向が行かなかった。究極的には高パワー、長寿命のレーザー分野では、GaNウェハーが必要になったわけですが、この点はGaN分野の特徴的なことと思います。

SiCはやはりパワーデバイスに応用するために欠陥を減らすという方向に最初から進みましたので、ヘテロエピタキシャル成長技術は消えていったと思います。だからSiCはバルク結晶を作ることが大きな開発テーマで、バルク単結晶ウェハー上に高品質エピ膜を作る形で今ここまで来ていると思います。つまり結晶の高品質化を目指す方向で、研究開発が進んできています。

ダイヤモンドはどうかといいますとまだ分からないと思います。どの種類の欠陥、どれくらいの欠陥密度が許されるのか、まだ正確にはわからないと思います。実は4インチウェハーの多結晶で表面が現実的にフラットであれば良いのかもしれません。ダメなのか良いのかがまだ分かっていないと思っています。私がキーと思う点はやはりダイヤモンドウェハー開発で、ウェハーは、完璧な無欠陥単結晶のウェハーである必要がないとも思っています。要はサイズで、企業サイドからすると、手持ちのプロセス装置の事情から3インチまたは4インチが必要と思います。デバイスメーカーを奮い立たせるようなデータが出てくるとダイヤモンド業界に参入するプレーヤーは増えてくるというのが私の思うところです。

 

  「デバイスメーカーを奮い立たせるようなデータが出てくると
ダイヤモンド業界に参入するプレーヤーは増えてくる」