2015.03.22

【Webマガジン Vol.14 – Mar., 2015】熱物性-熱伝導率と物質・材料

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コーンズテクノロジー編集部
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高い熱伝導率、低い熱伝導率

それでは電気を流さない絶縁体には自由電子がいないので低い熱伝導率になるのでしょうか?図3の写真は、合成ダイヤモンドの薄板で氷を切断している様子です。ダイヤモンドは地球上でもっとも熱伝導率が高い物質として知られており、その値はおよそ2000 W/mK以上あります。すなわちダイヤモンドは銅の約5倍の熱エネルギーを流すことができるのです。写真ではダイヤモンド板を持った指先から熱エネルギーが氷に瞬時に伝わって氷の融解熱を供給するので、氷をまるでバターを切るように切断することが可能です。ダイヤモンドの高い熱伝導率の要因は、強固な結晶格子を持つために格子振動の伝搬速度が大きいことによります。熱・温度とは原子(格子点)の振動を統計的に表したものなので、格子振動の伝搬速度は熱伝導率と比例関係にあります。先に述べた金属においても、熱エネルギーの媒体は自由電子ですが、同時に金属の結晶格子の熱振動とは平衡状態になっています。金属は柔らかい物質なので格子振動による熱伝導の割合は小さいですが0ではありません。

このように物質の熱伝導の大小は、1.電気をどれだけ通しやすいか、2.結晶構造がどれだけ強固であるか、の2点でおおよそ理解することができます。


図3 薄い人工ダイヤモンド板を氷に突き刺した様子
高い熱伝導率を持つダイヤモンドは指先の熱を瞬時に氷に伝えるため、氷をバターのように切ることができる。

 

材料として必要な熱物性

これまでに物質と熱伝導率の関係をお話しましたが、実際の工業材料として必要な熱物性を得るためには様々な技術が使われています。近年はエネルギーの効率利用が強く意識されており、そこでは高熱伝導と断熱の両方向で技術革新が求められています。

例えばCPUなどの電子回路とヒートシンクの間の凹凸を埋めて密着性を向上することで排熱を向上させる熱伝導グリースやシート材料にはできるだけ熱伝導性のよい材料が必要です。前項で述べたように、シート材のように柔らかい物質は本質的に熱伝導率が低いため、高熱伝導率のフィラー(図4)を混ぜて用いられます。接触面に関わる機能をマトリックス基材が担い、熱伝導の機能をフィラーに分担させることで、材料として良好な熱伝導特性を得る工夫がなされています。

 


図4 窒化ホウ素でできた2種類の熱伝導フィラー
窒化ホウ素の熱伝導率の理論値は300 W/(mK)を越え粒状にした
材料を樹脂シート材等に混ぜて電子回路の排熱用に用いられる。

 

一方、住戸では、部屋内を暖めるために生み出した熱を逃がさないことや夏場の外気からの熱の侵入を防ぐために断熱材は必須です。熱伝導は振動のエネルギーなので、熱伝導の媒体が気体や真空であれば効率的な断熱を行うことができます。図5の写真は、断熱材のグラスファイバーボードの例です。低密度のグラスファイバー中に含まれる空気により断熱し、かつボード内の空気の移動を低減することで物質移動(対流)による熱移動も抑制することができます。このボードは米国の標準研(National Institute of Standards and Technology)で頒布されている標準物質(SRM1450d)であり、熱伝導率は0.03 W/(mK)です。理科年表によれば空気の熱伝導率は0℃において0.024 W/(mK)ですから、ほぼ空気に匹敵する断熱性能を持ちます。

 


図5 グラスファイバー製の断熱材。
熱の遮断は家屋のエネルギー利用の効率化に欠かすことができない。

 

正確な熱物性評価の必要性

ご紹介してきたように、私たちの生活には様々な材料の熱物性が工夫されて用いられています。このときに、誤った材料の熱物性値を用いてしまうと、製品性能が想定通りに出なかったり、予期せぬ故障の原因になることがあります。正確な熱伝導率や熱拡散率、比熱容量の評価は大変重要ですが、正しい手順を守り規定に準拠した測定が必要です。私たちの所属する産業技術総合研究所計測標準研究部門材料物性科熱物性標準研究室では、主に固体・薄膜材料の熱物性計測技術(熱膨張率、熱伝導率、熱拡散率、比熱容量)や、測定手法の校正に用いることができる各種標準物質の開発を行っています。また、熱物性データベースでは1万件を超える熱物性値を収録し、ウェブブラウザからデータやグラフを見ることができます。固体熱物性クラブという活動を通じて、計測に関わる技術的なご質問やご相談にも随時承っていますので、ご興味を持たれましたら下記のホームページをぜひご覧ください。

 

 

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