2017.07.22

【Vol.21 – July , 2017】Product News:マルチ/ハイパースペクトル技術解説:第三回「マルチスペクトルカメラ」

WEBマガジン

  • TOP>
  • 特集>
  • 【Vol.21 – July , 2017】Product News:マルチ/ハイパースペクトル技術解説:第三回「マルチスペクトルカメラ」
コーンテクノロジー
この記事の監修者
コーンズテクノロジー編集部
コーンズテクノロジーでは先進的な製品・技術を日本産業界へ紹介する技術専門商社として、通信計測・自動車・防衛セキュリティ・電子機器装置・航空宇宙・産業機械といった技術分野のお役立ち情報を紹介しています。

③ファブリーペロー干渉式(Fabry-Perot Interferometer)

FPI(ファブリペロー干渉計)技術を使用した分光方法です。FPIにより特定の波長分光を行うが、最近はMEMS技術により、より小型で分解能の高い製品があります。検出器としてFPA2次元センサを使用する事で、X方向とY方向の2次元画像に対する各ピクセルのλ情報を取得する事が可能であり、モザイク型のHSIとは異なり、補正を必要としないスナップショットでのハイパースペクトル情報の取得も可能です。
内部のハーフミラーはピエゾ素子(圧電素子)で動かすため、FT-IR式のような機械的構造は不要になり、 製品の小型化が可能ですが、可変できる波長幅が比較的小さくなります。安価に製造できるため、製品価格は主に検出器に依存します。

 

 

FPI技術を用いたHSIの動作原理
  • 概要説明
  •   ①計測情報を含む光がレンズを介してFPI素子に入射
  •   ②入射された光がハーフミラー内で反射され干渉波を生成
  •   ③ハーフミラー内の空間ギャップを動かす事により、干渉波を選択し分光を実施

 

  • 特徴
    • 空間ギャップの制御はピエゾで実施するため、低消費電力で可動
    • 原理上、小型化が可能
    • XとY方向の情報をλ方向にスキャンするため、1枚の画像内における歪みは少ない

 

 

Senop社 小型ハイパースペクトルカメラ

 FPI技術を用いた具体的な製品として、フィンランドSenop社の小型ハイパースペクトルカメラがあります。
小型・軽量化な製品でスナップショットが可能なため、ドローンなどの不安定な条件での計測に向いております。

  • アプリケーション
    • ドローン搭載
    • 環境測定
    • 産業およびリサーチ用途
    • 資源/火山観測
    • 農業
    • 鑑識

 

仕様項目 備考
水平x垂直 FOV 36.5 x 36.5
F値 ~2.8
波長範囲 500~900nm カスタム対応可能
スペクトル分解能 >10nm, FWHM 波長範囲に依存
スペクトルステップ ~1nm ±1nmの確度で選択可能
スペクトル帯域 ~380最大 プログラム可能
露光時間 0.06~3000ms 調整可能
フレームレート 30fps 10ms露光時間(1010 x 648にて)
最大イメージサイズ 1010 x 1010
消費電力 5.4W(平均) 最大10.5W
重量 ~720g バッテリー、センサ等含まず

小型・軽量化およびスナップショットにより、ドローンなどの不安定な条件での計測に向いている

 

SpectralEngine 社 小型分光センサ

スペクトラルエンジンズ社 分光センサN/Mシリーズ

 

同じFPI技術を用いたもので、シングル検出器を用いる事で価格面を抑えた製品として、フィンランドのSepectral Engines社の分光器があります。
こちらは小型且つ堅牢性を持っているため、プロセスコントロール(水分測定/膜厚測定)、ガスモニタリング、鑑識、製薬関連、組み込み用などの多くの応用で検討されております。
なお、Senop社及びSpectral Engines社は共にVTTフィンランド国立技術センターよりスピンアウトし創立された会社です。

  • アプリケーション
    • プロセスコントロール(水分測定/膜厚測定)
    • ガスモニタリング
    • 鑑識
    • 製薬関連
    • 組込み用
仕様項目 Nシリーズ Mシリーズ
波長範囲 1.35~1.65μm
1.55~1.95μm
1.75~2.15μm
3.0~3.7μm
3.7~2.155μm
検出器 拡張InGaAsシングル PbSeシングル
波長数 最小0.05nmステップ
最大512まで選択可能
波長切替時間 1ms
各波長の最小測定時間 0.1ms
波長分解能(FWHM) 0.7~1.4%
動作可能温度範囲 0~70℃(結露無き) 0~50℃(結露無き)
光学インターフェイス SMA905
電気的インターフェイス USB2.0
サイズ(L x W x H) 57 x 56 x 27mm 58 x 57 x 27mm
重量 125g

 

④液晶可変フィルタ式(Liquid Crystal Tunable Filter )

液晶可変フィルタ技術を使用した分光方法で、Lyotフィルタとしても知られております。偏光子間に複屈折水晶と電気的に制御可能な液晶セルを配置し作成した複屈折干渉フィルタを使用し、液晶セルを制御する事で、入射された光から特定の波長分光を行います。
検出器としてFPA 2次元センサを使用する事で、X方向とY方向の2次元画像に対する各ピクセルのλ情報を取得する事が可能であり、補正を必要としないスナップショットでのハイパースペクトル情報の取得も可能です。
液晶セルを制御する事で分光するため、FT-IR式のような機械的構造は不要。製品の小型化が可能ですが、可変波長範囲が大きくなく(SWIR領域まで)、波長切替時間に一定の応答時間が必要になります。また、LCTF素子そのものは安価ではなく、製品価格は比較的高いです。

 

 

⑤音響光学可変フィルタ式(Acousto-Optic Tunable Filter )

音響光学フィルタ技術を使用した分光方法です。音響光学素子は透明結晶素子の片面に圧電素子トランスデューサを接合したものであり、RF信号がトランスデューサに印加されると、音響波が結晶内で生成され、これは光弾性効果により結晶内の疎密を生み出し、屈折率の周期的な変化を生み出します。
結晶内の疎密の領域は、実際に透過回折格子におけるスリットによる効果に類似し、もし音響光学素子の疎密距離が短ければ、細かな回折格子として、入射される光ビームが多くの階数に分解されます。この作用を利用し、RF信号の周波数制御して特定の波長分光を行います。

 

上記紹介しましたハイパースペクトルイメージングをメリット・デメリットなどの観点からまとめたものが以下になります。

パッシブ型ハイパースペクトル~まとめ~

コア技術 メリット デメリット 代表的な会社/製品
PushBroom
プッシュブルーム
回折格子(及びプリズム)を使用し、光の回折を用いて分光実施 ・多くの市場で実績有
・狭帯域での分光が可能
・ラインにおけるλ情報を一度に多く取れる
・試料又はカメラ本体を動かす必要がある
・計測に時間が掛かる
・X方向とY方向に時差有
・小型化が制限される
Specim社/SisuCHEMA/Inno Spec社/BlueEye/その他多数
FT-IR
高速フーリエ変換
マイケルソン干渉計とFPA検出器を組み合わせ、干渉波から分光実施 ・1λにおける2Dのデータを1度に取得可
・高λ分解能
・可動部があり、計測時間は分解能に依存
・装置は大型
・比較的高価
Telops社/Hyper-Cam
Fabry-Perot
FP干渉計
ファブリーペロー干渉計FPA検出器を組み合わせ、干渉波から分光実施 ・可動部が無い
・スナップショット
・小型化が可能
・可変波長幅が小さい
・応答時間が分光数に依存
Senop社/小型HSIカメラ
SpectralEngines社/小型分光センサ
LCTF
液晶可変フィルタ
複屈折水晶と電気的に制御可能な液晶偏光板の組合せで、干渉波から分光実施 ・可動部が無い
・スナップショット
・検出波長範囲が製造時に固定(最大SWIRまで)
・応答時間が100~150msと早くない
・比較的高価
CISS社/LightGuard Velovision
Inno-Spec社/小型分光器
AOTF
音響光学フィルタ
音響光学素子に特定のRF信号を印加し、光の回折を利用して分光実施 ・可動部が無い
・強度調整可能
・RF等の付属回路が必要
・可変波長範囲が小さい
・比較的高価

上記全ての技術はパッシブ型であり、太陽光などの光源が必要

 

■アクティブ型 分光技術

これらの技術はパッシブ型であり、太陽光などの光源が必要になる事に注意が必要です。そのため、パッシブ型の分光技術には以下のようなデメリットがございます。

①太陽光下での観測では、天候(晴れ、曇り、雨)の影響を受け、夜間での使用に制限を受ける
②ハロゲン光等の光源を用いる場合で、計測対象物に応じて適切な光源を選択する必要があり、設備が大型化してしまう

これらの欠点を補うために、アクティブ型の分光技術の開発が近年進んでおります。一般的なアクティブ型の分光技術は、既知の波長を持ったレーザー光を照射し、反射や吸収の振る舞いを観測する事を可能にしております。また、使用するレーザー波長を複数用いる事で、マルチやハイパースペクトルのセンシングを行う事ができ、レーザーをスキャニングする事でイメージングも実現可能です。

以上の事から、アクティブ型の分光技術は、①天候や夜間などの制限が無い、②レーザーを用いる事で、高い計測安定性などのメリットを持っている半面、計測距離はレーザーの出力に依存しており、高出力レーザーの使用に注意が必要となります。

SEC Technologies アクティブ型 CWA 検出システム
仕様項目 FALCON 4G-S FALCON 4G-B
動作原理 Co2レーザーによる差動型LIDAR
波長範囲 9.2~10.7μm
レーザーパルスパワー 約50mJ 約 40mJ
レーザーパルスレート 4パルス/秒
検出可能CWA (代表例) GA, GB, GD, GF, VX, HD, L
検出時間 <0.25秒 <0.5秒
iFOV 1mRad 2mRad
最大検出距離 >6000m >5000m
アイセーフ Yes
サイズ(L x W x H) 507 x 272 x 296mm
重量(パンチル機能無し) 28Kg 29Kg

以下にマルチスペクトル技術とハイパースペクトル技術をまとめます。

上記表より、マルチスペクトル技法とハイパースペクトルの技法のすみ分けにより、補完性拡充すると共にパッシブ型とアクティブ型の組み合わせで、新しいアプリケーションの開発が進むことを期待しております。 一方で、検出器に依存するが、一般的に商用の製品価格はまだまだ高い事や取得したデータキューブの後処理(膨大なデータを処理するためのワークステーションとライブラリーの準備)が課題となっているため、ブレイクスルーするために今後これらが改善・向上されて行く事を期待しております。

 

関連製品情報

当社取扱いの「サーモグラフィ/特殊カメラ」一覧は、こちらをご覧ください。

 

 

 

 

*16cm-1、128 x 128ピクセル、200μs 露光時間にて
波長範囲⇒拡波長範囲化、スペクトル分解能⇒高分解能化