2016.07.22

【Webマガジン Vol.19 – July, 2016】Product News:マルチ/ハイパースペクトル技術解説:第一回「分光とは」

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この記事の監修者
コーンズテクノロジー編集部
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パシフィコ横浜で開催されたOPIE ‘16(5月18日~20日)において、19日(木)にコーンズテクノロジー株式会社は、『マルチ/ハイパースペクトル技術原理と応用 選び方・使い方のポイント』という題目で講演発表を行いました。今後3回に分け、OPIE講演録として講演に用いたスライド内容と併せてその内容を紹介していきたいと思います。 第一回目は、マルチ/ハイパースペクトル技術を理解する上で重要な【分光】を中心に説明をします。


■ 『スペクトル情報』の重要性

分光とは光をスペクトル(波長/波数)に分ける事であり、古くは光をプリズムで分光したことが良く知られています。光を“分ける”ということから、現在はX線から電波まで数多くの光(電磁波)を分光できると言われています。分光の説明を行う前に、そもそもなぜ『スペクトル情報』が重要であるかを2枚のリンゴの画像で説明します。


りんごのモノクロ画像、リンゴのカラー画像、スペクトル情報(=Wikipediaより引用)

この2枚のリンゴの絵を見たときに、直感的に『どちらがおいしそうか』と聞かれると、多くの人はモノクロ画像(256階調のグレースケール)よりもカラー画像を選ぶと思います。(よほど想像力の高い人はモノクロを選択するかもしれませんが)

それは、特に意識をしていなくても、カラー画像に含まれるカラーのスペクトル情報からモノを評価し、結果として、より多くの情報を持ったカラー画像のリンゴのほうが『おいしそう』に見えるからです。例えば、このリンゴが赤色では無く緑色の場合は、そのカラースペクトル情報から、リンゴの品種の違いやまだ熟れていない等の判断を我々は直感的にします。このように、スペクトル情報から多くの事が分かることで、結果としてモノの評価が容易になることが分かります。


■ 分光により分かること

次に、分光に関して説明をしたいと思います。ここに同じ容器に入った同じ植物が4つある画像があります。一見して、全く同じモノが4つ並んでいるように見えますが、実は右から2つ目の容器に入った植物は偽物(本物の植物では無い)です。


イメージ画像1

先ほどのリンゴの説明では、人間の目で観測が可能な可視光のスペクトル情報(ブロードバンド)でモノの評価をしましたが、可視光のブロードバンド上のスペクトル情報だけでは、評価ができないものがあります。その場合は可視光以外の波長を含めた分光処理を行う必要があります。以下は、各波長(473nm、547nm、681nm及び770nm)におけるグレースケール階調での画像になります。


イメージ画像2
(上記イメージ画像1,2 は「Norwegian Defence Research Establishment (FFI)
Hyperspectral imaging-principles, technology and applications」 より引用 )

この4枚の分光画像を見てお分かりかと思いますが、同じ可視光でも473nm(青色)や547nm(緑色)よりも681nm(赤色)のスペクトル情報の方が、画像上での違いが出るため、植物が本物であるか偽物であるかの評価・判断がより可能になります。つまりは、ブロードバンドでは見えない情報も分光を行う事で、見える化する事が可能となります。更に、波長範囲を可視光から赤外線光まで拡げることで、評価をする上で重要なより多くの違いを見つける事ができるようになります。


■ 分光技術-吸収分光

分光技術を用いて、現在様々な計測に応用がされています。以下の4種の計測方法が主なものになりますが、赤外線の領域においては主に吸収分光が良く使われています。

  • 吸収分光:
    試料に光を照射し、透過光(反射光)の強度を計測
  • 発光分光:
    試料から光を放出させ(励起)、その光尾強度を計測(XRFなど)
  • 光散乱分光:
    試料に照射する光エネルギーから言ってのエネルギーシフトを計測(ラマン分光など)
  • 光音響分光:
    試料に光を照射した際に発生する応力波(熱)の物理現象を計測

吸収分光を用いた定性・定量解析は、以下のように説明される事で知られています。 『この世に存在する多くの物質は、その物質を特性付ける原子団(官能基)を持ち、この原子団は振動などの赤外吸収帯(指紋領域とも呼ばれます)を持っている。この振る舞いを応用する事でモノの定性・定量解析が可能となります。』

尚、分光においては、それを実施するために当然“光源”が必要となりますが、光源の取り扱い方により、パッシブ型(太陽光やハロゲン光などの波長の広い光源を用い、特定の波長の分光計測を行う)とアクティブ型(レーザー光のように、特定の波長を持った光源を使用して分光計測を行う)の2種類があります。


■ 吸収分光に使用される主な波長とその透過度

以下は吸収分光に使用される主な波長とその透過度(吸収度)を示す表になります。この表から、特定の物質が特定の吸収波長(指紋領域)を持つことが見て取れますが、ここでの重要なポイントは、1つの物質が感度の異なる複数の吸収波長を持っているという点です。


吸収分光で使用される主な波長(例)-Wikipediaより引用)

物質の種類 波長(μm)
H2O 2.7、1.87、1.38、1.1、0.94、0.82、0.72
CO2 4.3、2.7、2.0、1.6、1.4
O3 4.74、3.3
O2 1.58、1.27、1.06、0.76、0.69、0.63
N2O 4.5、4.06、2.87
CH4 3.3、2.20、1.66
CO 4.67、2.34

分光を行うだけであれば、光路上にバンドパスフィルタ(特定の波長だけを透過するフィルタ)を挿入するだけで実現可能ですが、単波長だけでの使用では、以下のような課題があるために、通常の計測システムでは複数の吸収帯を用いる事が多くあります。

まとめとして

最後に、主なカメラとスペクトルに関して、以下に纏めます。

ブロードバンドカメラ(モノクロまたはカラー)
・X方向とY方向の2次元情報 (可視領域以外のスペクトル情報含まず)
マルチスペクトル(MS)カメラ
・X方向とY方向の2次元情報に加え、波長情報としてZ方向に複数のスペクトルバンド(分光帯)を持つカメラ。一度に数十のスペクトルバンドを持つ画像をMSIと呼ぶ。
ハイパースペクトル(HS)カメラ
・X方向とY方向の2次元情報に加え、波長情報としてZ方向に複数のスペクトルバンド(分光帯)を持つカメラ。一度に数百のスペクトルバンドを持つ画像をHSIと呼ぶ。


主なカメラとスペクトル

次回はマルチスペクトルカメラを中心に紹介します。

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