2022.09.28

Column: 見えるカメラの作り方 ~フォーカスと解像度の最適化~

WEBマガジンイメージング

  • TOP>
  • 特集>
  • Column: 見えるカメラの作り方 ~フォーカスと解像度の最適化~
コーンテクノロジー
この記事の監修者
コーンズテクノロジー編集部
コーンズテクノロジーでは先進的な製品・技術を日本産業界へ紹介する技術専門商社として、通信計測・自動車・防衛セキュリティ・電子機器装置・航空宇宙・産業機械といった技術分野のお役立ち情報を紹介しています。

はじめに:カメラの「見える化」を阻むもの

私たちがカメラを使う時、「写したいもの」が必ずあります。
しかし、それが望み通りに写るのかは、いつも悩みの種です。
カメラが写せるものには、限りがあります。

例えば、ベルトコンベアのラインモニタを考えますと、要求仕様は以下のようなものでしょう。
「ベルトコンベアを流れる段ボールを、もれなく、必要な精度で、写したい。」
しかし、それを満たせる機材の仕様は、容易には策定できません。

・ 広い範囲を写すためにレンズを広角にすると、遠くのものが小さくなって判別が難しくなる
・ 望遠側でレンズをズームすると、被写界深度が減ってしまい、フォーカシングが厳しくなる
・ デジタルズームでカバーするには、高精細なセンサーが必要になり、コストに直結する
・ ズームやフォーカスに時間がかかると、撮像物の動きを追い切れず、写せない
・ …

トレードオフは複雑に絡み合い、解決は簡単ではありません。
その克服のため、今でも様々な提案がされ続けています。

高感度・高精細のイメージセンサーはその一例ではありますが、本稿では、光学系の新しいソリューションを取り上げて、その利点と欠点を概観します。

・ MEMSを用いた、高速マルチフォーカスモジュールの導入

本稿では、その利点と限界、使いこなしのプロセスを概観することで、「カメラの見える化」の一例を紹介します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出展:Teledyne e2v 2M-Multi-Focus-MIPI unit PDF
https://imaging.teledyne-e2v.com/content/uploads/2020/09/2021-09-22_e2v_2M-Multi-Focus-MIPI-Module_web.pdf

※ 注意:以下の記述は試作品によるものであり、市販品とは異なる場合があります。

 

マルチフォーカスモジュールの考え方

MEMSアクチュエータにより駆動される特殊なレンズを備えたシステムで、回路経由でダイレクトにフォーカシングを行います。非常に高速で、機械部品を用いないためシステムがシンプル、安価で、メンテフリー、長寿命が特徴です。

※ いわゆるオートフォーカス(合焦点を自動で探索するシステム)ではなく、「指定したフォーカス値を高速に往復するシステム」です。

フォーカシングスピードは、動画のフレームレートとほぼ同じで、体感的には意識しないでいいほどに高速です。

そのメカニズムは、以下のように説明できます。

 

 

 

 

 

上の図は、レンズのF値と、フォーカス位置、MTFの関係をグラフにした一般的な例です。
例えば、レンズをF=8に絞れば、深い被写界深度が得られますので、一回の撮影で、広いフォーカス位置をカバーできます。しかし、解像度が落ちる(MTFが低下する)ので、詳細な画像は得にくくなります。また、レンズが暗いため、露光時間を延ばすか、強い照明が必要になります。

対して、F=2.8に絞りを開けますと、高精細な撮影が可能になりますし、露光時間も短くて済みます。他方、被写界深度が浅いため、F=8と同じ範囲をカバーするには、フォーカスをずらしつつ、複数回(上図では3回)の撮影が必要になります。

マルチフォーカスシステムは、F=2.8での3回の撮影を、F=8での1回の撮影に匹敵するほど高速に行うことで、高精細な撮影を、広いフォーカス範囲で行うものです。

いわば、明るいレンズのメリットと、レンズを絞った時の簡便さの「いいとこ取り」を行うのです。

 

実際に撮ってみると・・・

マルチフォーカスモジュールがどの程度「写るか」を、一般的なバーコードの撮影で試してみました。

使用したバーコードは、EAN-16相当で、モジュール幅37mm程度、線幅の規格は0.33mmです。これを適当な治具に添付したものを、ワークとして用いました。

撮影結果の評価は、一般的に入手可能なバーコード認識のフリーソフトを、目安として用いました。

例えば、バーコードをカメラから200mmほどの距離に置き、フォーカスを合せて、撮影します。
ほぼカメラの直前ですので、バーコードは大写しになります。画像は鮮明で、認識ソフトでも問題なく読むことができました。

 

 

 

 

 

 

(200mm撮影イメージ)

 

次に、バーコードを800mmに遠ざけて、同様に撮影します。
カメラから離れた分、写りはかなり小さく、かつ粗くなります。
バーコード認識ソフトでは、読み込むことができませんでした。

 

 

(800mm撮影イメージ)

 

同様に、ワークの距離をより細かく刻んでデータを取得したところ、次の結果となりました。

 

 

 

 

 

 

 

(撮影距離と、バーコード認識の可不可のチャート。画像は同寸になるよう。拡大・縮小しています。)

認識ソフトでバーコードが読み込めたのは500mmまで、という結果となりました。

なぜ「見えない」のか?

この認識劣化のメカニズムを探るため、取得画像のバーコード部のコントラストのプロファイルを取ってみました。

200mmの距離では、コントラストはピークまで明確に保持されています。

 

 

 

 

 

(左図バーコード中央の黄色いマーキング部のコントラストプロファイルを、右図に示しています。)

 

距離を400mmまで離すと、いくつかのプロファイルのピークが、なまり始めます。

 

 

 

 

 

 

500mmでは、幾つかのピークが消失し始めます。

 

 

 

 

 

800mmでは、プロファイルがほぼロストしています。

 

 

 

 

 

バーコード認識の可否は、このプロファイルの保持にかかっていることがわかります。

以上の現象を、イメージセンサーのpixel解像度の観点から解析したのが次の図です。撮影位置に対して、バーコードのライン幅が、イメージセンサーの何pixelに当たるのかを計算し、バーコード認識の可否との対応を取ってみました。

 

 

 

バーコードの認識には、線幅当り1.5 pixel程度が必要との結果とわかります。

バーコードと、センサのpixelの位相が合っていれば、原理的にはバーコードの線幅の投影幅が1pixelに等しい所まで認識は可能ですが、実際には様々なマージンが必要です。今回は、鮮明化の画処理なども行っていないので、やはり、線幅に対して数pixel程度の解像度は必要そうに思われます。むしろ、1.5pixelでも認識してくれているこの汎用ソフトは、優秀と言えるでしょう。

ところで、上の結果は、カメラに必要な画角(テレ側)を、端的に決めてしまいます。

例として、撮像距離範囲に要求仕様を「50~800mm」と仮定した場合の、光学系に必要とされる画角の仕様を算出してみます。

・ ワイド側
50mmの距離で、バーコードモジュール全体の幅(37mm程度)が全て写る広角レンズが必要。
→ HFOVは40°以上、と計算されます。

・ テレ側
800mmの距離で、バーコードの線幅に対し1.5pixel以上となる望遠(拡大)レンズが必要になります。FHDセンサーを想定しますと、
→ HFOVは30°以下、と計算されます。

以上から、必要な画角は「40°以上、かつ 30°以下」となってしまい、解がありません。

この解決には、より高精細のセンサーが必要になります。

以上から、マルチフォーカスモジュールの仕様の策定は、レンズだけではなくイメージセンサーの仕様とセットで考える必要があることが分かります。

マルチフォーカスは本当に速いのか?

次に、マルチフォーカスモジュールの「スピード」について考えてみます。
具体的には、「必要とされる距離範囲カバーするには何ショットの撮影が必要になるのか」を算出してみます。

まず、撮像位置と、被写界深度のデータを簡単に取ってみます。
例えば、バーコードを60mmの距離に置き、フォーカス位置を前後にずらして、バーコード認識の可否を調べてみました。

 

 

 

 

 

 

同様に、撮影距離を100mmにしてデータを取ります。

 

 

 

 

 

 

次に、200mm。

 

 

 

 

 

 

同様の実験を繰り返し、被写界深度は、概ねワークディスタンスの±20%程度と判明しました。

被写界深度±20%を仮定しますと、距離範囲の要求仕様 50~800mmをカバーするには、次の7点での撮影が必要になります。

 

 

 

 

例えば、本稿の冒頭で、レンズのF値として2.8と8を比較しましたが、今回の場合、レンズのF値はいわゆる「3段の差」なので、露光時間は8倍が必要になります。

これに対して、マルチフォーカス化で7回の撮影が必要となると、フォーカシングの高速性を仮定しても、スピード的なメリットは、あまり期待できないことになります。

高速性を生かしたい場合は、F値のフィッティングも必要であることが分かります。

以上のように、マルチフォーカスモジュールの利点を生かすには、必要とされる撮影条件に応じて、詳細な仕様検討が必要です。

マルチフォーカスモジュールのフィッティング(まとめ)

マルチフォーカスモジュールの高速なフォーカシングは、皆様のカメラシステムに、従来にない特徴を与えることを可能にします。

しかし、従来の複雑なトレードオフを一挙に解決するものではなく、仕様の詰めや最適化は、やはり必要です。

・撮像対象は何か
・撮影したい距離の範囲
・必要な撮影の精度
・撮影環境(照明など)

冒頭に挙げたTeledyne e2v のMulti-Focus Unit は、センサーとレンズの両方をセットでカスタマイズ可能です。

本コラムに関するご質問やご要望等ございましたら、ページ下部のWEBマガジンお問い合わせフォームより、お気軽にお問い合わせください。

新製品情報

Teledyne e2v の新製品「Topaz」を用いた、新しいMulti-Focus Unit がリリースされました!

出展:Teledyne e2v Optimom 2M
https://imaging.teledyne-e2v.com/products/imaging-modules/optimom/

詳細につきましては、ページ下部のお問い合わせフォームよりお問い合わせください。