2014.06.22
【Webマガジン Vol.10 – June, 2014】アイスオックスフォード社訪問記 (無冷媒クライオスタットLEMON)
WEBマガジン
英国ヒースロー空港に到着後、長距離バスでオックスフォードまで乗り、さらにタクシーでICEoxford社(以下、アイスオックスフォード社)のあるWitneyという町まで移動しました。5月上旬でも気温は12°Cで、空港到着直後はあまり感じませんでしたが、アイスオックスフォード社が冷却機を作っているせいか(?)Witneyに近づくにつれて、徐々に肌寒さが募るような感じがしました。
今回訪問したアイスオックスフォード社は、2004年にこの業界では老舗であるOxford Instruments社の出身の現CEOおよびCTOの二人により設立され、設立10年目にあたる今年「2014 West Oxford Business Awards(WOBAs)」において、Coutts Business AwardとOwen Mumford Innovation Awardの最優秀賞をダブル受賞しています。
アイスオックスフォード社
無冷媒クライオスタットLEMON(レモン)の仕組み
アイスオックスフォード社のフラグシップ製品は、3年程前に開発されたLEMONと名づけられたドライタイプのクライオジェニックシステムです。このクライオジェニックシステムについて説明します。
物を冷やすには、次の2つの方法があります。
- (a) 熱い風呂を水で冷やす場合にように、(冷たい)水が周りから熱を奪って温度を下げ、 自身の温度が高くなることで冷やす方法
- (b) アルコールで傷口を消毒すると冷たく感じる場合のように、 アルコールが周りから熱を奪って温度を下げ、自身が蒸発する
(液体から気体に変化する)ことで冷やす方法
何となく似ていますが、両者は異なる物理現象を利用しています。前者は顕熱による冷却、後者は相変化あるいは潜熱による冷却と呼ばれています。液体ヘリウムにより冷却する超低温の世界でも同じことで(a)(b)いずれかおよび両方の方法を利用してサンプルを冷やしています。こうしたクライオジェニックシステムには、冷媒(たとえば液体ヘリウム)そのものが持つ冷却能力を利用するウェットタイプとポンプを利用し電気パワーを用いて冷却するドライタイプの2種類があります。ウェットでもドライでもその原理は同じですが、冷却パワーをどのようにして得るかという点が異なります。
コストパフォーマンスで勝るLEMON(レモン)
単純さおよびトータルの冷却パワーといった点では、ウェットシステムの方に軍配が上がります。やはり最初から十分冷やされたもので冷却する方が、単純で冷却スピードという点で効率が良いからです。しかし、冷媒として使用される液体ヘリウムは液体窒素(LN)よりもよっぽど高価であるため、これを消費せずにすむ後者のドライタイプには、前者に比べ価格は高いが「ランニングコストを低減できる」という大きなメリットがあります。すなわち、ドライシステムは冷媒を閉じ込めて循環させる分、複雑な構造で(電気パワーを用いて徐々に冷却する)余分な中間段階が入っているにしても、何より蒸発による冷媒の追加が不要なため、ランニングコストも電気代だけで低く抑えられます。したがって、当初に余分な出費があったとしても、いずれかの時点では元を取り返すことができるものと考えられます。
無冷媒クライオスタットLEMON(レモン)
詳しい製品情報は こちら
ドライタイプであるアイスオックスフォード社のLEMONは、冷却用の共通の容器(クライオスタット)にこれらの温度範囲に応じた冷却用プローブを差し込んで所望の温度を得ています。この方法だといちいち所望の温度ごとに全体を変えなければいけない一体型と比べて、拡張性も高く、複数の温度範囲が必要なユーザーにとっては更にコストパフォーマンスがよくなります。
なお、このアイスオックスフォード社がターゲットとしているのは、10mK~4K ※の超低温を必要とするユーザーで、この温度範囲はさらに3つに区分され、それぞれで異なるタイプの冷却テクニックが用いられます。また、ラボには様々な異なるクライオジェニックシステムが所々に置かれていて、ユーザー毎に異なるシステムが必要になるということに改めて気付かされました。
※ (K=”ケルビン”で絶対温度表示の単位。通常用いる℃(摂氏)に換算すると、K = 273 + °C)
アイスオックスフォード社周辺の街並み
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