2013.07.22

【Webマガジン Vol.5 – July, 2013】MIMO-OTAによるスマートフォン無線性能評価

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コーンズテクノロジー編集部
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携帯電話におけるスマートフォンの占める比率は年々高まっている。最近発売された新型の携帯電話はすべてスマートフォンとなり、そのバリエーションも子供向け、高齢者向けなど広がりを見せている。

このスマートフォンであるが、従来型の携帯電話と比較してアンテナを含む無線部に対する設計が難しくなっている。例えば、スマートフォンにとって必須の大きな液晶画面と大容量バッテリの採用は、筐体におけるアンテナの実装のための体積を大幅に減少させている。実装体積が少ないということは、アンテナ設計の自由度が低下すると共に、アンテナ近傍の導体の影響で放射効率が低下する問題がある。

 


拓殖大学 八王子キャンパス

 

   さらに、WiFi、GPS(Global Positioning System)、Bluetooth、ワンセグそしてNFC(Near Field Communication system)という様々な通信メディアのアンテナも搭載しなければならず、アンテナや高周波回路のエンジニアにとってスマートフォンの設計は非常に厳しい状況にある。携帯電話の通信方式の進化もこの状況に拍車をかけた。W-CDMAシステムではレイク受信機能によりシングルアンテナが標準であったが、HSPAシステムやEV-DOシステムからダイバーシティが採用され複数のアンテナが搭載されるようになった。さらにLTEシステムでは、このマガジンのVol.1において説明がなされているようにMIMO(Multi Input and Multi Output)が実装されマルチアンテナが標準となった。

このような状況で、携帯電話やスマートフォンを研究・開発を進める上で実使用状態における無線性能は重要な情報となっている。そこで、3GPPやCTIAなどの標準化に関わる会議において、携帯電話の無線性能のガイドラインと測定方法を定義した。その一つが総合無線性能である。総合無線性能は、TRP(Total Radiated Power)とTIS(Total Isotropic Sensitivity)またはTRS(Total Radiated Sensitivity)で構成される。TRPは、携帯電話から空間に放射されるすべてのエネルギーを球面で積分することで得られる値である。アンテナが取り外せない携帯電話の場合、コネクタで接続しパワーメータで送信電力を測定することが出来ない。そこで、暗室や専用の暗箱を利用し、空間に放射された電力を測定しTRPを求める必要がある。一方、TIS/TRSは携帯電話のすべての方向から到来する電波の感度を球面で積分することで得られる値である。無線ユニット単体では十分な感度特性を示していても筐体に組み込むことで、例えば液晶を駆動するインバータのノイズが回り込み感度が低下する現象を観測することができる。

本報告では、最新のLTEシステムに対応した総合無線性能に着目し、MIMO-OTA測定システムについて解説する。

 

MIMO-OTA測定システム

MIMO-OTA測定システムについて説明する。OTAとはover the airの略称で、実空間においてスマートフォンなどの無線装置の総合無線性能を測定することである。OTA測定の利点は、スマートフォンの実使用状態における無線性能を測定することができるので、実装による無線性能の変化を知ることが出来ると共に、例えば人が通話している状態で測定することも可能である。既に、3GPP、3GPP2およびCTIAなどでは、それぞれの通信システムに適した測定方法の標準化が議論されており、その中の一つがOTA測定である。一方、MIMO-OTAについても同様な議論が進んでいるが、この報告では、クラスタモデルを用いたMIMO-OTAシステムについて説明する。マイクロウェーブファクトリー社の暗室(3m×6m×3m)に、LTE用基地局エミュレータ(アンリツ製MT8820C)とコーンズ社のフェージングエミュレータ(アナイト社 EB Propsim F8)によるMIMO-OTA測定システムが構築されている。評価用アンテナは、4本でそれぞれV、Hの偏波を持つ。測定系の構成を図1に、暗室内の写真を図2に示す。

 

  図1

  図2

今回は、3GPPのSingle spatial cluster model with multi-path based on SCME urban micro-cell channel modelを採用した。このモデルは、6つのクラスタで構成されクラスタの内部には3つの多重波が存在する。このモデルを前述の環境で再現する。本来ならば、6本のアンテナが必要となるが、フェージングエミュレータの高度なエミュレーション機能を用いることで4本のアンテナでこのモデルを実現する。

評価は、2011年度初期に発売されたLTE対応スマートフォンと2013年に発売された最新のLTE対応スマートフォンについて測定を実施した。まず初めに両スマートフォンともにアンテナ指向性の特性が不明であるため、端末を水平面内で回転させながら通信を行い、水平面内の指向性を測定した。測定した利得の最大方向をクラスタの0°方向に向けて設置し、LTEシステムにおけるMIMOのスループットを測定した。最新のLTE対応スマートフォンのスループット特性を図3に示す。図中には、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)マッピングのMIMO、16QAM(16 Quadrature Amplitude Modulation)マッピングのSIMO(Sing Input and Multi Output:別名、ダイバーシティ受信)、そして16QAMマッピングのMIMOのスループットカーブを示している。所望CN比(Caria to Noise ratio)が低いQPSKでは、スマートフォンの入力レベルが低くても通信できるが、スループットの最大値は約8Mbps(bit per second)となる。SIMOの16QAM はQPSKのMIMOより高速で約10Mbpsを得ている。最後に16QAMのMIMOであるが20Mbpsを実現しSIMOの2倍のスループットが得られており、MIMO環境が再現できていることが確認できる。

次に図4では、新旧2台のスマートフォンのスループット特性を比較した。どちらも16QAMのMIMOで、スループットの最大値は共に20Mbpsが得られたが、最低受信感度は新旧で10dBの劣化が観測された。これは、2年間の間にMIMOに対応するためのアンテナや高周波回路の実装技術が、大幅に改善した結果と考えることができる。

 

  図3

  図4

   このように、フェージングエミュレータを用いることで多くのアンテナを用いることなくMIMO環境が構築できることを、スマートフォンのスループット特性から確認した。

 

今後の展望

OTA測定を行うことで、スマートフォンなどの無線機の無線性能を実使用状態で知ることができる。この情報を設計にフィードバックすることで、無線機の無線性能の向上につながる。ここでは、携帯電話を対象に説明してきたが、今後は、WiFi、GPS、Bluetooth、ワンセグそしてNFCなどのさまざまな通信方式についても同様の測定が必要になると考えており、その対象は、タブレットやポータブルナビなど通信機能を搭載したポータブル機器に広がると考えている。

なお前山研究室では、拓殖大学産学連携センター電波暗室にW-CDMA、CDMA2000、GSM、PHSに対応した基地局エミュレータと、無線機を全立体に回転させる回転台を具備しており、様々な携帯電話の総合無線性能の評価を実施しており、その経験から最新のLTEについて測定ならびに評価を実施させて頂いた。関係各位に感謝致します。

 

あとがき

マイクロウェーブ ファクトリー株式会社(http://www.mwf.co.jp/)では、無線端末の無線特性評価サービスをご提供しています。 国内で数少ないMIMO-OTA評価のできる設備を保有するテストラボです。