技術用語 簡単解説シリーズ パルス状RFパワー測定における注意点
はじめに
前回のテクニカルレポートで、RFパワーにおけるセンサはいくつか存在し、測定対象に応じて最も適合するモノを選択する必要があることと、“ダイオード型センサ”と“サーモカップル型センサ”の使用上の注意点を説明しました。
測定する“パワー”の波形には大きく分けて、連続的(アナログ的)な波形(CW: Continues Waveform)とパルス状(ディジタル的)の波形があります。 近年はデジタル化が進み、パルス状のパワー測定の需要が増えてきております。
今回はBoonton社が提供するパワーセンサを例題に、前回のテクニカルレポートで説明できなかったパルス状のRFパワー測定を行なう際のセンサタイプ毎(“ダイオード型センサ”と“サーモカップル型センサ”)の特徴や取り扱い上の注意点などを簡単に説明したいと思います。
パルス状RFパワーの計算に関して
長方形状のパルスRF信号では、繰り返し発生するデューティーサイクル(負荷サイクル)が既知の場合、パルス状のRFパワーを平均値から計算することができます。 デューティーサイクルは、繰り返し周波数の間隔毎にパルス幅(T)を割る又は、以下の図1に示されるような繰り返し周波数のパルス幅の時間を掛けることで算出することができます。

図1. デューティーサイクルとパワーの関係に関して
この方法では、サーモカップル型センサの全ダイナミック・レンジで有効であり、非常に高いパルスパワーの測定を可能にします。 ダイオード型センサでは、この方法はダイオードの二乗特性の領域内でのみ有効です。
パルス状RFパワー測定:サーモカップル型センサ
図2に、サーモカップル型センサに適合する有効なデューティーサイクル及びパルスパワーの領域を示します。 デューティーサイクルの値が減少するにつれて、パルスパワーにおける平均パワー値は減少し、ノイズは誤差の要因となります。 更にパルスパワーの過負荷(オーバーロード)の制限が存在し、デューティーサイクルがどれほど短くても、この過負荷の制限は適用され、原則的に、平均値パワーを超えることはできません。(測定の制限とセンサの焼損レベルの間にはヘッドルームがあります)
サーモカップル型センサでの検知方法は“熱”であるため、理想的にはサーモカップル型センサは最大の平均値パワーより2桁大きいパルスパワーを取り扱うことができます。 最小のパルスの繰り返し周波数はおよそ100Hz(10ms/1パルス)です。

図2. Boonton社サーモカップル型センサにおける相関図
パルス状RFパワー測定:ダイオード型センサ
図3に、ダイオード型センサの有効動作領域を示します。 サーモカップル型センサのように、図の下部での測定はノイズにより制限され、デューティーサイクルの減少と共に悪くなります。 図の上部では、とても短いパルスが検知用コンデンサーにチャージされる為、パルスパワー上で制限されます。ダイオード型センサの焼損レベルは、パルス状波形及びCW波形共に同じです。 最小のパルスの繰り返し周波数は10kHz(0.1ms/1パルス)です。

図3:Boonton社ダイオード型センサにおける相関図
最後に
前回のテクニカルレポートでも説明致しましたように、RFの測定は非常に難しく、周波数の違いやパワーのレベルによっては特に気をつける必要があります。 最近の測定器では、今回説明したデューティーサイクルを自動的に計算し、その結果から適切なRFパワーの測定を実施していますが、パルス状の波形では、実はこの計算が実施されていることを理解しておいてください。
全4回にわたって“RF測定”シリーズを行ないましたが如何でしたでしょうか。 今回のシリーズによって、より正確な結果を得るためには、取り扱っている製品の動作原理や計算方法などの正しい知識を身につける必要があることをわかって頂ければ幸いです。
- Vol.4 RF測定におけるパワーセンサ
- Vol.3 測定における不確かさって何? 後編
- Vol.2 測定における不確かさって何? 前編
この記事の監修者
コーンズテクノロジー編集部
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