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航空機開発におけるテレメトリー技術

テレメトリーとは?

テレメトリーとは測定データを離れた場所で確認するための方法です。現在はインターネット経由で、離れたところのさまざまな情報を簡単に入手することができます。天気や交通情報、定点カメラの映像など、ネットワーク接続さえできれば、どこにいても確認することができます。しかし航空機におけるテレメトリーは、インターネットが整備されるずっと前から使われて来ました。

航空機におけるテレメトリーは、新しい機体を開発する段階で特に必用とされる技術です。飛行の状態をデータで確認するには、さまざまな測定器を使い、状態を数値化して確認する必要があります。飛行機の速度や姿勢、高度や位置、エンジンの回転や温度、翼のコントロール、機体の振動や翼の歪みなど、多くのデータを検証する必要があります。

大型の飛行機では、計測値をモニターするエンジニアも乗り込み、数値を監視しながら試験を行います。もし異常な数値を発見したら、事故に結びつく前に、試験を中止しなければならないからです。

テレメトリーアンテナ

しかし小さな飛行機では、機内で数値をモニターすることはできません。そこで地上にいるエンジニアに、リアルタイムでデータを送る必用が発生します。その為にテレメトリーの技術が必要になる訳です。

取扱い製品 (詳細はこちら(586KB))
当社で取り扱う、テレメトリー関連商品。
機上搭載品から地上設備まで、トータルソリューションでサポートする。

テレメトリーを構成するアイテム

試験飛行で収拾したい情報を計測するために、各部にセンサーを配置しますが、これらの計測値はいくつもの機材を経由して、地上のモニター員に届けられます。ここではその経路と経路上にある機材の役割をご紹介します。

A. 機上設備

  • a-1 センサ
    目的に応じたセンサーを測定箇所に取り付けます。振動、歪み、温度などのベーシックな計測から、エンジンの回転や操舵の状態などの機体の状態、高度や速度などの飛行の状態など、試験の目的に応じたさまざまな情報が取得されます。
  • a-2 シグナルコンディショナー
    センサーを接続して、計測値をデジタル信号に変換する装置です。センサーが必要とする電源を供給する機能も持ちます。測定精度を上げるためには、小型のユニットをセンサーの近くに配置することが求められます。
  • a-3 マルチプレクサー
    複数のシグナルコンディショナーで収拾したデータを、一つのデータに集約する装置です。システム化されたシグナルコンディショナーでは、マルチプレクサーの機能を併せ持つものもあります。
  • a-4 変調器
    デジタルのデータを電波として送信できるように、デジタル信号を符号化し、RF(Radio Frequency)に変調します。ベーシックなFM変調から、多くのデータを送れる最新の変調技術など、目的に応じて様々です。
  • a-5 送信器
    変調された信号を、長距離伝送に必用なパワーに増幅します。変調器と一体化した小型のユニットを使う場合もあります。
  • a-6 送信アンテナ
    信号を電波に乗せて地上に送るためのアンテナです。通常は機体の下方に付けられますが、アクロバットな飛行を行う場合や、空港内での安定した通信確保のために、上部や翼に付けられる場合もあります。

米国TTC社製品を中心に組み立てた、
機上システムのイメージ。
 
B. 地上設備

  • b-1 受信アンテナ
    多くの場合、移動する航空機を追尾するトラッキングアンテナを使用します。航空機側のアンテナが固定アンテナとなるので、スペースに余裕がある地上側をトラッキングアンテナとして、通信距離を稼ぎます。恒久的に設置する固定型や、試験の時のみ設置する移動型があります。
  • b-2 レシーバー
    アンテナで取得したRF信号から、目的の信号を抜き出すチューナーを備えます。複数のレシーバーを搭載して、ダイバーシティ機能を使用するケースもあります。
  • b-3 復調器
    レシーバーで取得したRF信号(または処理に適した周波数に変換したIF信号)から、デジタルデータに変換します。
  • b-4 モニター装置
    デジタルデータを、視覚的にわかりやすい方法で表示します。古くから使われてきた、ペンレコーダーによるチャート表示や、最新の3Dグラフィックを使ったビジュアル表示まで、時代や目的に応じて、様々なモニター方法が存在します。

Sバンド帯の電波を受信する米国TelAntCo社
のトラッキングアンテナ。
写真は固定局用で、車両に積んで移動できる
タイプもある。
 
C. その他の付帯設備

c-1 データレコーダ
計測の結果をレポートしたり、後で詳しく解析したりするために、データを記録する必要があります。通常はテレメトリーでの通信障害を回避するために、機体側にデータレコーダを搭載します。しかしバックアップや、レコーダーを搭載できないような計測の場合、地上側にレコーダーをセットする場合もあります。
記録媒体は古くはペンレコーダーや磁気テープへの出力を使っていましたが、現在は振動などの影響を受けにくい、半導体メモリが主流になっています。

フランス/ドイツのゾディアック社は、航空機
搭載用に特化した、  さまざまなデータ
レコーダーを供給している。

テレメトリー上のデータ

テレメトリー上に流れるデータの形式で、多く使われているのがPCMフォーマットです。これは米国の国家規格であるIRIG(Inter Range Instrumentation Group)により規定されているフォーマットです。IRIG Standard 106の中のChapter 4で示されるデータフォーマットがPCM(Pulse Code Modulation Standards)で、その内容は一般に公開されています。そしてそのドキュメントも、webページから誰でも入手することができます。
IRIG106 (http://www.irig106.org/) のドキュメントはこちら
データは1と0の2値で組み合わされる、デジタル信号です。ビット化されたデータは、ワード単位で数値化され、マイナーフレーム、メジャーフレームとグループ化されます。そしてメジャーフレームの単位で繰り返されます。そのため、測定のサンプリング周波数は、PCMのボーレートと、マイナーフレームの長さで決まってきます。
しかし計測するデータは、種類によって必要なサンプリング周波数は異なります。音や振動などは早い周期が必要ですので、温度のようにゆっくり変化するデータまで同じ周期を使うと無駄になります。そのため特定のマイナーフレームのみに入れるデータや、各マイナーフレームに入れるデータ、そして一つのマイナーフレームの中に複数入れるデータなど配分を変えて、サンプリング周波数を調整しています。

ADAS社のMAGALIソフト
データは数値として解析されるだけではなく、
ビジュアルで表示して、直感的な判断に役立
てられる。ADAS社のMAGALIソフトは、基礎
解析から3D表示までをサポートするCOTSの
ソフトウェア。
 
テレメトリーを支える通信技術
  飛行する航空機からのデータは、電波にのせて伝送されます。しかしその伝送は、常に安定しているわけではありません。飛行機の距離や挙動、周辺のノイズ、障害物、天候など、さまざまな要因が通信の障害となります。
デジタルデータを電波で送信するには、まずはHiとLoのレベルで符号化し、使用できる電波の範囲内で変調する必要があります。また使用できる電波の周波数によっても、伝送できるデータ量や通信できる距離が変わってきます。
これらの組み合わせは時代により進歩してきましたが、絶対的に有利な環境はなく、その時の条件や機材の性能、使用できる電波環境により異なってきます。そのため現在の多くの送受信機では、プログラミングで符号化や変調の方式を、使用者の要求に応じて簡単に変更できる構造になっています。また条件が許せば、2つの周波数を同時に使うことで安全性を確保する場合があります。

最新の技術を詰め込んだテレメトリー
レシーバー。ソフトウェア無線の採用で、
高い性能と拡張性を併せ持つ。

  また最新の機材では、コンディションに応じて、符号化や変調方式を細かく切り替えながら、最適な通信を行うものもあります。この場合、送信側と受信側の同期は独自の方式を採用しているので、機材のメーカーを統一する必要があります。

受信側のアンテナ性能も、安定した通信の為には重要なファクターです。長距離の伝送では、指向性の高いアンテナを航空機のいる方向に向ける、トラッキングアンテナを使います。また2つ以上のアンテナを使い受信するダイバーシティも、よく使われる技術です。離れた位置に置いた2つのアンテナを使う、空間ダイバーシティは外観上でもわかりやすいですが、1本のアンテナの受信部で、2つの偏波に分けて受信する偏波ダイバーシティもあります。

また大がかりなものでは、数十キロ離れた場所に設置したアンテナからも、ネットワーク経由で信号を集め、1つのデータとして処理するシステムも、一部では使われています。

民生技術を取り込んだ、新しいテレメトリー

昔の無線通信の技術は、軍事産業がリードしてきました。そして現在、携帯電話やモバイルPCなどで使っている技術の多くは、軍事用として発明されたものをベースにしています。しかし現在、これらの技術は民間の機器向けとして使用され、改良が繰り返され、独自の発展をしてきました。

特にインターネットで使われるIPネットワークは、航空計測の分野に大きく入り込んできています。例えば航空機に搭載されたシグナルコンディショナーは、IPネットワークに接続されて、トランスミッタやデータレコーダに送られます。機能的に構築された計測用ネットワークには、カメラで撮影した映像情報などを同時に扱うことができ、高度な解析が行えるようになります。

これらのシステムはすでに実用化されており、ボーイング787や、エアバスA380の開発で使われました。また米軍ではiNETプログラムにより、IPによるコミュニケーションネットワークの標準化に取り組んでいます。

ITC展示会(米国)で発表される、iNETの研究
成果。実際に使用されたネットワーク機材が
展示された。

  このプログラムでは、航空機や地上の車両、そして基地を共通のネットワークでつなぎ、あらいる情報収集と指令系統を統合することを目指しており、計測の領域を超えた新しい環境作りに取り組んでいます。

そして近い将来、iNET規格に準拠した製品であれば、異なるメーカーの機器でも、簡単に同じIPネットワークにつなげて、使用できる環境になるでしょう。そして計測だけではなく、航空機をより安全で効率化された輸送手段とする為に、通常の運用に応用する試みが始められています。

この記事の監修者

コーンズテクノロジー編集部
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