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技術用語 簡単解説シリーズ RF測定におけるパワーセンサに関して

はじめに

日々の生活において、体温を確認するための【体温計】や体重を測るための【体重計】など、【×××計】はお馴染みで、最近では【万歩計】などがスマートフォンに代表される携帯電話で使用できるまでになっています。
RF(Radio Frequency:ラジオ周波数)の世界でも同じように【×××計】が存在し、例えばパワー(電力)を測定する場合は【パワーメータ:電力計】、電圧を測定する場合は【ボルテージメータ:電圧計】が利用されています。
【体温計】など日常で使用する計器では、測定速度、分解能および測定範囲などの性能を確認し、どのモデルを使用するか選択をしますが、パワー測定においても同様に、その測定する対象が直流なのか交流なのか、はたまたパルス状の信号なのかなど条件に応じて、一番適切なセンサが何なのかを選択する必要があります。
当社が取り扱いしております米国Boonton社は、RF測定用のパワーメータを提供しており、パワー範囲が0.1 nW(-70dBm)から25W(+44dBm)、周波数範囲が10kHzから100GHzのパワーセンサを提供しています。
使用するセンサのモデルに関して、測定対象の周波数範囲やパワーの内容を確認し、どのモデルのセンサが一番適切かを検討すると思いますが、実際の測定器使用者はスペックシートに記載されている性能以外にも“RFパワー”がどのようにして測定されるか、その検出原理を理解しておく必要があります。
一般的に、RF測定を行なう場合は“ダイオード型センサ”と“サーモカップル(熱電対)センサ”のいずれかが多くの場合使用されます。 それぞれのセンサは検出原理が違うためにそれぞれ利点と欠点を持っております。
今回は、Boonton社が提供するパワーセンサを例題に、センサの特徴や取り扱い上の注意点などを説明したいと思います。
 
サーモカップルセンサの特徴
サーモカップルセンサは熱電対に流れた電流値と温度上昇の関係を利用しております。そのため、測定されるパワーは実効値(RMS:Root Mean Square 二乗平均平方根)となります。 非正弦波信号や高調波を含む信号の測定においても測定精度への影響を受けにくく、又、極端に高い波高値を持つパルス性RF測定にも適しています。 Boonton社製のサーモカップルセンサは、1.0μW(-30dBm)~100mW(+20dBm)のダイナミックレンジ(パワー範囲)をカバーしております。
CW(連続波の信号)測定のヘッドルーム(最大入力パワーと熱電対が焼損し壊れるレベルの差)は2~3dBと非常に小さい為、比較的高い電力を測定する場合は注意する必要があります。 一方、非常に短いパルスであれば、大きな入力にも耐えることが出来ます。 例えば、100mWまでの平均パワー(CW)で使用されるセンサでは、およそ2μsの短期間であれば15Wのパルスに用いる事ができます。
サーモカップルセンサの大きな欠点の1つは、上述したように感度が小さいことです。これらのセンサの最小感度は熱電対により制限されます。 従って、10μW(-20dBm)以下の測定においては通常ダイオード型センサが使用されます。

ダイオード型センサの特徴

CW用ダイオード型センサは感度が高く、一般的には0.1nW(-70dBm)から使用可能です。尚、Boonton社のダイオード型センサは、2つのダイオードを用いたバランス式ダイオード検出器で構成されております。 この2つのダイオードによるセンサ構成は、1つのダイオードによるセンサに比較して高調波が抑制されると同時に感度も改善されています。

ダイオード型センサの欠点としては、比較的高い電力領域において、検波特性が “2乗特性検波”から逸脱してしまうことが挙げられます。10μW(-20dBm)から100mW(20dBm)の範囲において、高調波による測定誤差が増加してしまいます。

Boonton社製ダイオード型センサの2乗特性による応答は、下記Fig.1-1に示している通りで、この図から、100%のAM(振幅変調)信号であっても、比較的低いパワーレベルであれば事実上測定結果に影響が無いことがわかります。

もちろん、FM(周波数変調)信号やPM(位相変調)信号は、変調信号のエンベローブが変わらないので、全てのレベルで測定可能です。 FSK(周波数偏移符号化)信号やQM(直交変調)信号も又、エンベローブが変わらないので全てのレベルで測定可能です。
ダイオード型センサは、入力されるパワーを全波整流して検出する原理を用いていますので、測定値は実効値(RMS)ではなく平均値になります。 従って、通常はこの平均値に補正値を加えて、測定値を実効値として取り扱えるようにしています。 ダイオード型センサが持つこの“非2乗特性”はパワーメータにより直線補正されますが、それは例えばCW信号の様な、事前に定義しておいた波形に対してのみ有効です。 “シェーピング”と呼ばれるこの“直線補正”により、Boonton社製パワーセンサの場合は、0.1nW(-70dBm)から100mW(20dBm)のダイナミック・レンジをカバーする事ができます。 CW測定では、センサの持つ90dBの全てのレンジを測定する事ができますが、非正弦波や高調波複合の信号の測定時には、ダイオード型センサは、2乗特性範囲(10μWおよびそれ以下)以内においてのみ使用されなければならないということに注意が必要です。
それぞれのセンサの良し悪し
サーモカップルセンサは、前述の通り変調(非CW)信号の実効値(RMS)を測定する事ができます。但し、熱電対の応答速度が比較的遅い為、瞬時値の測定には向いていません。
一方で、短いパルスやディジタル変調された搬送波の正確な電力測定には、ダイオード型センサが有効となります。

Boonton社パワーメータの特徴

短パルスやディジタル変調搬送波の正確なパワー測定のために、Boonton社はピークパワーセンサと呼ばれる広帯域のダイオード・センサを開発しました。 これらのセンサは、高精度でRF信号の瞬時パワーを測定しなければならないアプリケーションのために設計され、モデル4400ピークパワーメーターおよびモデル4500デジタル・サンプリング・パワー・アナライザーで使用する事ができます。 ピークパワーセンサの帯域幅がほとんどの変調信号(30MHz以上 センサーに依存)より広いため、それらは正確にRF信号の瞬時パワーエンベローブに応答します。
また、センサの出力はあらゆるタイプの信号(CWや変調)用に完全に線形化しています。 Boonton社ピークパワーセンサは、センサの情報と周波数補正値を内蔵の不揮発性メモリに格納することができます。 線形性補正値は、パワーメータに内蔵されたプログラマブル校正器により自動的に作られます。 高いセンサ帯域幅と周波数およびパワーメータにより連続的に実行される線形性補正を持っており、平均(CW)パワー、ピークパワー、ダイナミック・レンジ、パルスのタイミング、波形観測および統計的な電力分布関数の計算などRF信号上で多くのタイプの測定を行なう事が可能です。

最後に

RFの測定は非常に難しく、周波数の違いやパワーのレベルによっては特に気をつける必要があります。 測定対象にあった適切なパワーセンサを選択する事が、より良い測定を実現する事の近道になります。
最近の測定器も自動化が進んで、システムの煩雑なセットアップも改善されてきておりますが、いつでも最後は人間の“判断”が重要になってきます。

この記事の監修者

コーンズテクノロジー編集部
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